小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 25 ぷっと膨れた紫陽の顔がまたかわいい。 主夜は思わず笑ってしまう。 「そう膨れるな。俺はお前の顔がとてもいいと思うぞ」 「…笑いながら言われても、嬉しくないですぅ…」 よしよしと紫陽の頭を撫でながら、この温かい気持ちがどこから出てくるのか、主夜は不思議になる。 紫陽の持っている気がそうさせるのだろうか。 とにかく、紫陽をずっと甘やかしていたくなる。 誰に対しても持ったことのない感情だ。 「紫陽、欲しいものはないのか?」 映画を観終わり、再び街に出て、主夜は隣を見下ろした。 紫陽がふるふる首を横に振る。 「いいえ。あ、でも」 紫陽はちらりとビルの上にある時計を見上げた。 「たいやきが…」 「何?」 「麻さんが、たい焼きを食べたことがないって言ってました。今から買って帰れば、ちょうどお茶の時間に間に合いますよね?」 にこにこと笑って見上げてくる紫陽はとてもかわいいと思うが、主夜は面白くない。 自分と歩いているときに、紫陽が他の誰かのことを考えている。 それがこの面白くない気持ちの原因だ。 それでも、皆に優しいところが、紫陽のいいところなのだろうと思い直して、 「では、うまいたい焼きを売っている店を知っているか?」 となるべく優しく尋ねる。 紫陽が嬉しそうにこくっと頷いた。 「幾つ欲しい?」 たい焼きの焼ける甘い香りが漂っている店頭で、主夜が紫陽を振り向く。 「えっ…と、お茶の時間には黎さまも星さまも戻ってくるから…、5つ欲しいです」 紫陽が指を開いて、5と示したとき、主夜の視界の隅で黒いものがちらりと動いた。 〈妖か?〉 品物の代金を払って、紫陽のほうに向きなおると、今度はチラチラと動く影がはっきりと見えた。 「主夜さま…」 紫陽が不安そうに主夜を見上げる。 「お前にも見えたか。あれは下妖だ」 「下妖…」 [*前へ][次へ#] [戻る] |