小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 23 主夜は、麻に紫陽を取られてしまったようで、なんだか面白くない。 「はい、ありがとうございます」 紫陽が笑う。 まるで太陽のようだ。 「そうそう、紫陽坊ちゃまは笑っていらっしゃるのが一番でございますよ。さあ、食堂へどうぞ。今日は坊ちゃまの大好きな、トマトのリゾットでございますよ」 「わあ、麻さん、大好きっ」 「ほっほっほっ。さあ、行きましょう」 食べ物に釣られる紫陽も紫陽だが、釣る麻も麻だ。 〈俺は紫陽に一度も大好きなどと言われたことがないのに…〉 主夜ははっとして立ち止まる。 〈今、何を考えていた…?俺は紫陽に大好きと言われたいのか?〉 「主夜さま、お早くどうぞ。冷めてしまいますよ」 麻の声がかかって、主夜は小さく頭を振った。 〜〜〜〜〜〜〜 〈とてもここが豊かな自然に囲まれた、東京の外れとは思えないな〉 ビルが立ち並ぶ街へ出て、主夜はあたりを見回しながらそう思う。 嫌いなはずの街の喧騒が、今日は少しも苦にならないのは、隣にいるのが物を欲しがる女ではなく、紫陽だからだろうか。 「どこか行きたいところはあるか?」 隣を歩いている紫陽に、優しく尋ねる。 街を歩きたかったわけではない。 掟を学んで、沈んでいた紫陽の気持ちが、少しでも上向きになればと思って連れ出したのだ。 もっとも、あまり面白くないことに、紫陽の気分は麻の手料理で回復したようだったが…。 紫陽が主夜を見上げて、かわいらしく首を傾げてみせる。 「ぼくはあまり街のことをよく知らないので…。あ、でも、街のどこからでも陰陽寮へは帰れますから、主夜さまを迷わせるようなことはしません」 「そうか」 主夜の手が、そっと紫陽の頭に乗る。 「では、映画でも見ようか」 紫陽が嬉しそうな顔をした。 それを見て、主夜も嬉しくなる。 「映画は好きか?」 「はい」 「この街の映画館では、今、何をやっている?」 紫陽がいくつか映画の題名を挙げた。 「その中で、紫陽が一番見たいものを見よう」 [*前へ][次へ#] [戻る] |