小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 22 「はい…。神の掟、11条。神は人と契ってはならない。子を生してはならない。11条を犯した者は、100年の封じ、または神界の追放…」 紫陽がパタリと本を置いた。 午前中の日差しが、レースのカーテンを通して、柔らかく紫陽に降り注いでいる。 「主夜さま、聞いてもいいですか…?」 「なんだ」 「母は…僕を生んだせいで、神界を追放されかかったと聞きました。封じの期間が倍になったとも…。そんなに重い罰を、僕のせいで…」 紫陽の瞳に涙がたまっている。 「桃子が罰を受けたのは、お前のせいではない。桃子が自分で決めたことの結果だ。桃子はお前を生んだことを喜び、お前をとても誇りに思っている。そうでなければ、俺をここによこしたりするものか。それに、お前の祖父…神王も、本当はお前をとても愛しているはずだ。お前に“生誕の祝い”をしたのだからな」 紫陽が瞬きをしたので、涙がぽろりとこぼれた。 主夜が体を乗り出して、それをそっと親指で拭う。 紫陽を笑わせたい。 「今日はここまでにしよう。昼食が済んだら、少し街へ出てみたい。案内してくれ」 我ながら甘いと思うが、紫陽をみているとつい甘やかしたくなる。 そんな自分に戸惑いもあるが、心地よくもあった。 ドアに静かなノックの音がして、主夜は紫陽の頬から手を離した。 「お二人様、お食事の時間でございますよ」 麻の声だ。 教育を始めた時、紫陽は昼食の時間になると自分の小屋へと戻っていき、食事を済ませてから再び主夜のもとへ来ていたのだが、いつの間にか麻が紫陽の昼食も用意するようになっていた。 黎と星は陰陽本家で昼食をとるので、二人きりの静かな食事だ。 「どうしたんです、紫陽坊ちゃま。主夜さまにいじめられましたか?」 紫陽の涙の跡を見て、麻が目を吊り上げる。 主夜が育ってしまって、手をかける相手がおらずに寂しい思いをいていたらしい麻は、ここにきて紫陽にありあまる愛情を降り注いでいる。 紫陽はぶんぶんと勢いよく首を横に振った。 「違いますっ。神の掟を学んだので…」 「神の掟…?おやまあ、悲しがることなんか、何もございませんよ。桃子お嬢様は182年と半年後に、紫陽坊ちゃまにお会いするのを楽しみにしています。そのあいだは、この麻が坊ちゃまのお母様代わりにならせていただきますからね」 麻がエプロンのポケットからハンカチを出して、紫陽の顔をごしごしと拭いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |