小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 21 「もちろんさ。僕は星のだから。…でも、主夜のことは好きになってもいいよ。あれは誰のでもないから」 「はい」 「黎、いい加減にしろ」 怒られちゃった、と、ぺろっと舌を出して見せる黎に、紫陽がくすくすと笑う。 笑顔がとてもいい。 これならきっとうまくやっていけるだろうと、主夜の瞳が優しくなった。 「明日の朝、9時にここに来るように。遅刻するな。俺は厳しいぞ」 もう一度、紫陽の髪をくしゃりと撫でる。 「はいっ。お邪魔しました」 「あ、俊也は来なくていいよ。僕のほうから、明日10時に修術所に行くから」 「はい。では、失礼いたします」 部屋を出て行く俊也が、一瞬主夜を睨みつけた。 目ざとい黎がそれを見て面白そうに笑う。 「俊也、大丈夫だよ。紫陽ちゃんを君から取り上げたりしないから」 「!!」 俊也は返事もせずに、逃げるように紫陽の後を追っていった。 「まあ…!あの陰陽の者は、礼儀知らずですこと」 麻の言葉を聞き流しながら、主夜は明日からの紫陽の教育を楽しみにしている自分を、不思議な思いで見つめていた。 〜〜〜〜〜〜〜 紫陽の記憶力はいいようだ。 主夜は紫陽が音読をしているのを聞きながら、ほほ笑んだ。 普通、鬼が陰陽の術者たちにする教育は、鬼と神と人の歴史、その他にそれぞれの掟や、三者共通の法律、そして退妖の術だ。 紫陽の場合は他の術者たちとは、まるきり立場が違うのだが、珠の宿り手であることや、出生のことを考えた時、知っておいたほうがいいだろうと、主夜は陰陽の術者たちが受けるのとまったく同じ教育を、紫陽に施そうと考えていた。 歴史は語って聞かせるだけで覚えてしまったし、掟や法律も一度音読をさせれば、ちゃんと覚えている。 この一週間で、机上の勉強はほとんど終わっていた。 〈来週からは術を教えなければならないな〉 紫陽の声は耳に心地よくて、終わらせてしまうのが残念な気もするが…。 「神の掟、11条…」 紫陽の声がふと止まった。 「どうした、続けろ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |