小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 2 500年前、冥府の国を司っていた妖(よう)が、神界 鬼界 人間界に戦いを仕掛けてきた。 長い歴史の中で、あらゆる魂を浄化させ転生させてきた妖は、己の体から下妖(かよう)を出し、生きた者を喰らうようになった。 天を統べる神と地を統べる鬼は、この世の始まりに“世界”から与えられた珠と玉のもと、一致団結して妖と戦った。 “世界”から永遠の命を与えられた妖を殺すことはできなかったが、神の珠からは白い龍が、鬼の玉からは黒い鬼が出て三妖と戦い、妖の長 燐(りん)を赤子の姿にして冥府の国に戻した。 この戦いで神界 鬼界 人間界は多くの犠牲者を出し、珠と玉の宿り手もまた帰らぬものとなった。 傷ついた珠と玉は長い眠りにつき、今だそれらの宿り手は生まれてこない。 赤子の姿になり、力が弱くなった妖の長 燐は、魂の浄化も“世界”の意思を伝える語り部としての役割も果たさなくなった。 “世界”の意思を伝える語り部。 魂の浄化をし、この世に送る者。 二つの役割をこなしていた妖を失い、神界 鬼界 人間界では、それまで無きに等しかった法律や種族の掟を作ることを余儀なくされた。 以前のような力はなくても、妖は己の体から下妖を出し、人を喰らうことをやめない。 この世の始まりに“世界”から地を統べることと、人を導くことを託されている鬼界は、能力の高い人間を集め、陰陽寮を組織し、これに地上を守らせるようにした。 〜〜〜〜〜〜〜 東京銀座のとあるブランド店の最上階。 限られた客しか入れない一室の窓から、主夜(しゅや)は地上を眺めていた。 〈腐りかけの魂か…〉 道の中央で殴り合いを始めた人間を見下ろして、眉をひそめる。 妖が浄化をしないまま転生してくる魂は、ゆっくりと腐敗してゆく。 生まれ変わりの激しい人間界では、世相が悪くなるばかりだ。 「ねーえ、主夜。どう思う?」 いきなり呼びかけられて、主夜は振り向いた。 声の主は撫子(なでしこ)。 彼女の目の前には、大きな大理石のテーブル。 そのテーブルの上に、洋服やバッグ、靴などが所狭しと並べられている。 「撫子の好きにすればいい。欲しいのなら、全部買っていくといい」 主夜は事もなげにそう言って、カードを取り出す。 「本当?いいの?」 撫子の妖艶な赤い唇が、うれしそうにほほ笑む。 「荷物は送ってもらうといい。持って歩くのはごめんだ」 「ええ。ありがとう…!」 数分後。 主夜は撫子と腕を組んで歩いていた。 ハイヒールを履くと身長が180pを超えてしまう撫子と、それより15pは背の高い主夜の組み合わせは人目を引く。 加えて、主夜の美貌と、撫子の圧倒的ともいえる濃密な色気だ。 すれ違う人は皆、一様に振り向いて、二人からふわりと薫る白檀に、 〈ああ、鬼か。ならば美しくて当たり前〉 と、納得した顔をする。 「主夜、本当にありがとう」 意識してそうしているのか、撫子の胸が主夜の肘に当たる。 「どういたしまして。撫子の次のリクエストは映画だったな。何が観たい?」 表面はほほ笑んで撫子をエスコートしているが、こんなことの何が面白いのかと胸の中で呟く。 主夜は鬼王の血筋に連なる、貴族といわれる家柄の生まれだ。 500年前の戦いの最後に生まれ、人間で言えば25〜6歳の青年期である。 鬼界で最も美しいと謳われた母親譲りの美貌と家柄の良さで、女からの誘いはいくらでもある。 [*前へ][次へ#] [戻る] |