小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
17
鬼族や神族は、仏壇はおろか、位牌さえ作る慣習がない。
「珍しゅうございますか、黎さま」
信也が手ずから茶菓を持って現れ、黎と主夜の前に座る。
「初めて見たものだから。気に障ったら謝るよ」
「いいえ、滅相もございません」
黎に向かって頭を下げ、信也は主夜に向きなおった。
「主夜さま」
「なんだ」
「あそこにあるのが私の父、先代の位牌。隣にあるのが私の最初の妻、あやめのものでございます」
信也は主夜の右側を指さした。
「?頭の父御の葬儀には出たが、あの時あやめに会っただろうか」
「覚えてはおられませんか?」
「あやめは病に伏せていたのではないのか。顔を合わせた覚えはない」
「そう…でございました」
頭を下げた信也の手が細かく震えている。
〈おかしなことを聞く男だ〉
主夜が信也の言動を不審に思った時、障子に人影がさした。
「頭、清めの用意ができました」
「うむ、ご苦労。…黎さま、主夜さま、どうぞ外へおいでください。夕方には紫陽さまと俊也(しゅんや)を挨拶に向かわせます」
「手数をかけたな」
「ありがとうね、頭」
空き地に戻ってみると、清酒が数本と塩が二盛り置かれているだけで、人は一人もいない。
「なーんか、暗い家だよねー」
黎が、空き地を一周する線になるように、塩を撒きながら言う。
「星がいなかったら、こんな場所一日だっていられないかも」
「つべこべ言わずに、さっさとやれ」
「はいはい。…でもさあ、おかしいと思わない?」
「何が?」
「ふつうは、僕たちを客間に通さない?僕たちはここではお客さんなんじゃないの?…それとも、あの位牌の並んだくらーい部屋が客間?」
「さあな。…人の習いはよくわからん…。始めるぞ」
「O.K」
黎が線状に撒いた塩の上に、主夜が丁寧に清酒を振りかけてゆく。
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