小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 16 「麻ももう年だ。環境が急に変わると辛いだろう」 「そうか…。別にかまわないよ。食事の支度くらい、僕がしてあげる」 「陰陽本家に寝泊まりすればいいだろう。星も俺もそうするつもりだ」 「だって、あの家、純日本家屋なんだよ。部屋はほとんど襖でつながってるし、防音もされてない。夜は星の声が筒抜けになっちゃうじゃない」 「きさま…」 主夜の顔に殺気が走った。 「僕の家を移すことも考えたんだけど…」 「そうすればいいだろう!!」 「狭いし、壁が薄いんだ。他の誰に聞こえなくても、鬼族の主夜には、きっと星の声が聞こえちゃうと思う。その点、主夜の家なら完全防音されてるし、広いからのびのび暮らせるじゃない。あ、僕の部屋はお構いなく。星の部屋に居候するから」 「…」 「主夜は、毎晩星の声を聴いて悶々として過ごしたいわけ?あ、皆で一緒に住むのが嫌なら、家だけ貸してくれればいいよ。君は陰陽本家に住めばいいし」 「自分の家があるのに、部屋住みをしろと言うのか!」 「あ、家を移す気はあるんだね」 〈こいつ〉 主夜が睨みつけると、黎はにっこり笑って見せた。 「ね?」 〈何が、ね? だ〉 しばらく黎を睨みつけていた主夜だが、やがて諦めたように肩を落とした。 幼稚舎時代から、黎の舌先三寸で言いくるめられてきたのを思い出したのだ。 「…わかった。一度空間を捻じ曲げなければならない。手伝え」 「さすが主夜!いいとも、何でも手伝うよ」 やたらに嬉しそうな黎が、自分とはまるで違う生き物に見える。 〈愛する者と過ごすというのは、そんなに嬉しいものなのか〉 「黎さま、主夜さま」 いつの間に来たのか、信也が主夜のすぐ後ろに立っていた。 「ご自宅をここに移されるのならば、清めが必要となりましょう。すぐに用意させますゆえ、まずは屋敷の中にて、ご休憩を…」 〜〜〜 陰陽本家には仏壇はない。 部屋の中にぐるりと巡らせた棚の上に、死んでいった術者たちの位牌が並べられているだけだ。 案内された位牌だらけの薄暗い部屋で、黎がもの珍しそうにあたりを見回した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |