小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 15 「はい。先代の葬儀のおりに」 「ああ、では今の陰陽の頭だな。名前はたしか、信也(しんや)だったか。幾つになられた?」 「はい、今年で75になりました。どうぞ、こちらへ」 信也の招きに応じて、再び山道を登る。 先代の陰陽の頭は、戸隠の分家である遠野の叔父が術者との間に生した子である。 本来ならば、人の葬儀に鬼は出席しないものだが、遠野の叔父がとても気にかけていた子供だったので、日頃遠野と仲の良い主夜の父親が、自分の名代として主夜を葬儀に出したのだ。 〈陰陽の人間は普通の人間より寿命が長いようだな。やはり、鬼の血が入るからだろうか〉 どう見ても人でいう50歳くらいの年齢にしか見えない信也の後ろ姿を追いながら、主夜はそんな感想を持つ。 「あ!主夜ぁ!」 昔の武家屋敷のような陰陽の頭の家(陰陽本家と呼ばれている)の前に立った時、右手後方から能天気な声がかかった。 主夜が渋い顔で振り返ると、案の定、黎がにこにこ笑いながら近づいてくる。 「なぜ、きさまがここにいる」 「ちょっと、こっちへ来て」 黎は問いに答えず、いきなり主夜の腕をつかんで歩き出した。 「おい、どこへ行くつもりだ」 「いいから、早く」 黎が足を止めたのは、陰陽本家の建物から100mほど離れた場所だ。 そこだけ整地したような空き地になっていて、草も木も生えていない。 「ここに、君の家を移してよ。測って見たら、ぴったりここにはまるんだよね」 「どうしてそんなことをする必要がある。そもそも、なんでお前がここにいる?」 「桜子に頼んで、頭(かしら)の一人息子の教育者になったんだ」 「陰陽の人間の教育は、分家以下の者の仕事だろう。貴族のお前が、頼んででもやる仕事ではない」 「あれ、だって、星もここに来るんでしょ」 主夜の口元がへの字になった。 たしかに、星は荷造りと家の後始末を済ませて、今夜にはここに来ることになっている。 「頭に聞いたら、教育の間ここに家を移してくる鬼は多いんだって」 「家を移すつもりはない。麻を母のもとに帰してしまったので、食事の世話をしてくれる者がいないからな」 「あれ、どうして麻を帰したのさ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |