小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 13 それなのに、どんな大怪我をもたちまち癒してしまう紫陽の力を、陰陽の者たちは恐れた。 「陰陽の人間には、紫陽が死にかけた者に命を与えているように見えるのでしょう。それで、命を与えられるのならば、奪うこともできるだろうと…」 「馬鹿らしい。陰陽の人間だって、仲間の命を奪うことくらい簡単にできるだろうに」 「ええ。ですが、陰陽の者たちは、紫陽の機嫌を損ねでもしたら、理不尽に命を奪われてしまうかもしれないと考えたのです。それで、紫陽とはなるべく関わらないようにと、あの子を小さな小屋に一人住まいさせ、怪我人が出た時だけ呼び出すようにしたのです」 「そこで、主夜にお願いがあるの。玉の宿り手が出るまでの間、紫陽を守り、術を教えてあげてくれない?」 やはりそうか。 桜子の言葉に、主夜は頭を抱えた。 女も嫌いだが、子供はもっと嫌いだ。 …嫌うというより、苦手と言うべきか。 〈子供など、ギャーギャー煩くて、しつこいくらいに付きまとい、少し叱ればすぐに泣く。…困った生き物だ〉 「一応、お願いという形をとっているけれど、これは鬼王の極秘裏の命令よ」 頭を抱えたまま返事をしない主夜に、桜子が追い打ちをかける。 「どうして俺なんだ。俺が子供嫌いなのは知っているだろう。他に適任者がいくらでもいるはずだ」 「主夜の場合、子供嫌いというより、子供を前にするとどうしていいのか解らないと言ったほうが正しいのではありません?…大丈夫ですわ。紫陽はわたくしに似て、とても大人しく、賢い子です」 主夜は口元を歪めて、桃子を見た。 幼稚舎時代には、択一したトラブルメーカーと呼ばれ、毎日何かしら問題を起こしては、主夜に後始末を押し付けていたのは、他ならぬ桃子だ。 〈どの口で、大人しく賢いなどと…〉 桜子も、苦笑いをしながら、 「主夜は鬼界一、強いからよ。他に適任者はいないって、鬼王直々のご指名よ」 主夜の父親を暗殺しようと、戸隠の屋敷に忍び込んできた刺客10名を、たった一人で返り討ちにした。 銀座の街に出没した下妖の大群を5分で消滅させたなど、主夜の武勇伝は数々ある。 「強いくせに、普段は穏やか。幼稚舎では常に成績優秀。非の打ちどころのない適任者じゃないの」 「強くて穏やかだというのなら、こいつだってそうだろう」 [*前へ][次へ#] [戻る] |