小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
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その倍ということは、200年の封じということになるはずだ。
200年もの間、誰とも会わず、たった一人でここに封じられることになって、どうして後悔していないなどと言えるのか。
なぜ、嬉しそうにほほ笑んでいられるのか。
恋愛とは、それほど素晴らしいものなのか。
「そりゃ、主夜には解らないよ。本気で誰かを好きになった事なんかないもの」
主夜がじろりと黎を睨む。
「実はね、主夜に来てもらったのは、桃子も子供のことでお願いがあるからなの。いずれは鬼界にも関係してくる事だけど、今はまだ表立って動けないのよ。だから、一番信頼のおける主夜に白羽の矢が立ったってわけ」
「…厄介なことじゃないだろうな」
「まあ、何を言うの主夜。あなたにお願いするのですもの、厄介なことに決まっていますわ」
〈まったく、この連中ときたら…〉
桃子と桜子の顔を見比べながら、主夜は頭を抱えたくなった。
幼稚舎時代からのトラブルメーカー達は、何か問題を起こすたびに、主夜に尻拭いを押し付けてきた。
おかげで主夜はどれほど苦労しただろう。
そんな主夜にお構いなしに、桃子が一葉の写真をテーブルの上に出した。
「見てくださいな。つい最近のわたくしの息子の写真ですわ。…葵が散歩中に偶然そこの鏡の前に落としてしまったものですの」
「…偶然、ね」
桃子がくすくすと笑う。
神族も鬼族も、用がなければ鏡道は使わない。
散歩などという、行き先があってないようなものに、鏡道を使うことはないのだ。
「ええ、偶然ですの。そうでなければ、葵が封じられてしまいます。…息子の名は紫陽(しよう)。17歳と半年になります。かわいいでしょう?」
主夜は写真を手に取り、じっと眺める。
少し癖のある柔らかそうな髪。
大きな瞳、小さな唇。
一見すると少女のような紫陽が、笑顔で写っている。
紫陽の背後から、まるで彼を抱きかかえるように伸びている、毛むくじゃらの腕は…。
「腕しか映っていないが、これは熊だな」
その言葉に、黎が大笑いする。
「なんだ、何がおかしい」
「だっ、だってっ!」
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