小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結 49 思わずため息が出てしまった。 この廊下を曲がって、階段を1フロア分降りたら、2年生の教室だ。 「うわっ!?」 俺の3歩先を歩いていた雅の体が、階段の最上段でぐらりと傾いた。 手を伸ばそうとしたが、ちょうど雅の後ろに立つような形になっている麗華が邪魔だ。 考えるより先に体が動いた。 麗華のわきをすり抜け、ダイブする。 捕まえた。 雅を抱えこんで体をひねり、背中から階段の半ばに落ちる。 俺一人なら転がって衝撃を和らげることもできるが、今は雅を抱えている。 絶対に転がることはできない。 そのまま下まで背中で滑り落ちた。 月齢12・6。 ほぼ満月に近いので、身体は絶好調だ。 衝撃による痛みは、まったく無い。 「蓮っ!」 大丈夫かと聞くより早く、雅が飛び起きた。 学校で雅を腕の中に入れておけることはほとんどないので、もう少し抱いていたかったと思いながら、ゆっくり体を起こす。 「蓮、蓮。…ごめんなさい」 小さな手が俺の背中を撫でさする。 大粒の涙が床に落ちて、ぽたぽたと音をたてた。 「どこか痛くしたのか?」 ハンカチを持っていないので、指で雅の涙を拭う。 「ちがっ…うっ…蓮が、っ僕がうっかり転んだりしたからっ、蓮っ、け、怪我っ」 誰も見ていなければ、抱きしめてキスするところだ。 雅にはかわいそうだが、俺のことで雅が泣いているのは、 すごく嬉しい。 「俺は何でもないぞ」 「うそっ…すっ、すごい音…したっ」 「ああ、音は派手だったかもしれないが…、今、月齢がいくつだか知っているか?」 「じゅっ…12・6」 泣きながらでも、すらっと答えるあたりは、さすが雅だ。 「だったら、俺が何でもないのは、わかるだろう?」 「ごめんなさい…蓮、ごめっ、なさい」 雅には俺の言葉が、ただ雅を慰めるための嘘にきこえているようだ。 雅は生身の人間だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |