小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
3
電車はあいかわらず、ぞっとするほど混んでいた。
雅をドア脇の手すりの前に誘導し、誰にも触れられることのないよう、前に立って両腕で囲うようにする。
雅は男のくせに、そのへんの美少女タレントなど相手にならないくらい、かわいらしい顔をしている。
しかも、体のパーツがどこもかしこも華奢できれいだ。
そういうわけだから、ラッシュ時には痴漢のえじきになってしまうのだ。
俺は雅を痴漢から守るために、大切に腕の中に入れる。
雅にとって、この姿勢は楽なことのようで、俺に体を預けてうとうとと眠ってしまう。
あたりまえのように雅と密着し、やわらかく預けてくる小さな体を抱きしめられる通学時間は、俺にとって至福の時だ。
「雅、次で降りるぞ」
「んー」
降車駅が近づいて声をかけた俺の胸に、雅がすりすりと顔をこすりつけてくる。
こういうところは、幼いころから変わらない。
まだ半分寝ている小さな手を引いて、電車を降りる。
雅が、電車に乗っている15分の居眠りから完全に覚めるのは、やたらに馬鹿でかい立派な校門と、ずらりと並んだ高級車が見えてくるころだ。
俺に寄り掛かるように歩いていた雅の体が、自然に離れていく。
ここで、俺の朝の役得は終わりだ。
校門の前に立っている、朝の当番の教師に一礼して、学校の敷地内に入る。
ここから校舎まで、まだ15分は歩かなければならない。
雅と俺が通っているのは、幼稚園から大学までの一貫教育を目的とする、帝都学院の高等部だ。
ここは日本を代表するハイソサエティな学校で、集まってくる生徒たちも、ほとんどが政界や財界の大物の子供だ。
なので、朝夕の登下校の時間には、校門前にずらりと高級車が並ぶことになる。
家の方針で電車通学の雅と俺は、ここではかなり異質といっていいだろう。
男女共学をうたっているくせに、ここで共学なのは幼稚園だけで、あとの小学校から大学までは、きっちりと校舎ごと男女に分けられている。
しかも、理事長の許可なくしては、お互いの校舎に出入りしてはならないと決められている。
良家の子女に間違いがあって、駆け落ちでもされたら困るという学校側の配慮らしいが、それならば、いくら離れて建っているとはいえ、同じ敷地内に校舎を作ることはないだろうと思う。
都心に東京ドーム8個分という信じがたい広さの敷地の中に、男子のみの、学院とよばれている中学と高校、女子のみの、女学院とよばれている中学と高校、それに幼稚園と、あわせて五つの校舎が建っているのだ。
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