小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結 23 「何か欲しいものは?」 かわいい顔が、横に動く。 柔らかい髪をそっと撫でてみる。 「…どうして、斎藤の招待を受けたのか、話せるか?」 尚さんは、それがどんなにつらいことでも、やると言ったことは必ずやる。 だから俺は、何が何でも明日の朝までに雅から事情を聞いて、尚さんに報告しないといけない。 そうでないと、俺たちは離れ離れになってしまう。 雅が、この家を出て専属になると言い出した時の、あんな苦しい思いはもうたくさんだ。 俺のものじゃなくていい。 ただ、雅のそばにいたい。 何か考えるように天井を見つめていた雅が、決心したように一つ頷いて、俺に視線をうつした。 「話すけど…、でも、聞いたら蓮は僕の顔を見るのも嫌になると思う。…そうなったときに辛いから、後ろを向いていてくれる?」 「俺が雅を嫌うわけないだろう」 こんなに好きなのに。 「お願い、後ろを向いていて。ちゃんと話すから」 雅に背中を向けてしばらくしたら、 「このまま蓮と一緒にいても辛いだけだから、蓮がいないところへ行こうと思ったんだ」 と、柔らかい声が聞こえた。 「俺が嫌いだったのか」 後ろを向いていてよかった。 俺は今、泣きそうな顔をしているはずだ。 「そんなことない。蓮のこと、大好きだよ」 「だったら、どうして俺といると辛いんだ」 「蓮は、家の決まりがあるから、僕と一緒にいるんでしょう?」 「…敦と言いあった時のことを言っているのか?俺は誰かに聞かれればそう答えることにしているが、べつに決まりだけのために雅と一緒にいるわけじゃないぞ」 本当は、家の決まりなんか関係ない。 好きだから、いつも一緒にいたいだけだ。 「そう?だって、蓮には好きな人がいるんじゃない?僕と一緒にいたら、その人とろくに会うこともできないでしょう?」 「それは…。好きな奴はいるが、雅といつも一緒にいたからって、そいつと会えないわけじゃない」 いつも一緒にいる雅が好きなんだから。 「そうなんだ。…でも、僕は辛いんだよ」 「どうして」 「僕が、蓮のこと大好きだから」 「俺だって、雅が好きだぞ」 雅の“好き”と俺の“好き”は違う。 だから、あえて軽い調子で言ってみた。 「違うよ」 「何が?」 「蓮が僕のことを好きな気持ちと、僕が蓮のことを好きな気持ちは、たぶん違う」 心臓が口から飛び出しそうになった。 俺の気持ちが雅に知られていたのだ。 だから、一緒にいるのが辛くなったのか。 雅にしてみたら、俺の気持ちはただ不気味で、恐ろしいだけのものだったろう。 「…俺が、気味悪いか?」 「どうしてさ。…蓮こそ、僕のこと気持ち悪くない?僕が蓮を好きっていうのはね、蓮とキスしたい、そのほかのこともしたいっていう好きなんだ」 「な…に…?」 耳を疑った。 まさか、そんなことがあるわけない。 「こっち向かないでっ…。僕がいくら蓮とキスしたいって思っても、蓮はそうじゃないって分かってるから。…だから、いっそのこと蓮のいないところへ行ったら、あきらめもつくんじゃないかって思ったんだ」 聞き間違いなんかじゃない。 今、たしかに雅は、俺とキスしたいと言った。 「もう、わかったでしょう?どうして僕が斎藤さんのところへ行ったのか」 背後でごそごそと音がする。 雅が寝返りをうったのだ。 たぶん、俺に背中をむけているはずだ。 「…ごめんね、蓮。勝手に気持ちを押し付けて。本当は僕の話したこと、忘れてほしいけど、無理だよね。僕のこと気持ち悪くて、もう一緒にいたくないと思ったら、遠慮しないでそう言って。蓮が幸せになれるように、できるかぎりの事はするから」 俺はゆっくりとふりかえった。 案の定、雅はこちらに背中を向けている。 足音をたてないように近づいて、雅の肩に手をかけ、こちらを向かせた。 「!蓮!なにすっ…」 俺からそむけようとする顔を両手ではさんで固定し、唇を合わせる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |