小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
22
言い捨てて部屋を出た。
今から夜来さんに連絡して車で迎えに来てもらうより、雅を抱いて走ったほうが早く帰れる。
「しっかりつかまってろよ。いつもより早く走るからな」
そう話しかけると、腕の中の小さな体は、泣きじゃくりながら首にしがみついてきた。
民家の庭先を走りぬけ、いくつか屋根を跳び移って、日下部の屋敷の門は開けるのが面倒で飛び越えた。
そのまま玄関に走りこんだら、雅がふるえながら、
「吐きそう…」
と訴えてきて、俺はあわてて尚さんの書斎の隣にあるトイレに直行した。
「すまなかった。なるべく静かに走ったつもりだったが、揺れて気持ち悪くなったな」
胃の中のものをすべて吐き出してほっとしたような顔を、絞ったタオルで拭いながら謝る。
嬉しいことに、俺が触ってもされるがままにじっとしていてくれる。
体のふるえもおさまってきた。
「ちっ、ちがっ…う。そうじゃな…」
雅の瞳から、止まっていた涙が再びあふれだしてくる。
「れ、れん」
「ん?」
「ごっ…めん…ごめんなさい。僕っ、蓮にひどいこと言ったのに…口もきかなかったりしたのに…」
ごめんなさいと、何度もあやまる雅の涙を指で拭う。
「もう泣かなくていい。何かされたわけじゃないだろう?」
見たところ。シャツを破られただけのようだ。
「なっ、何もされてない」
「なら、もういい。おいで、着替えて少し休もう」
腕を出すと、飛び込んできてしがみついてくれる。
それだけで十分幸せだ。
雅を横抱きにしてトイレを出たところで、尚さんが腕組みをして待ち構えていた。
まあ、当然だと思うが、かなり怒っている。
「雅、君は出がけに、蓮にずいぶん酷いことを言ったそうじゃないか。そこにいる資格はないよ。腕から降りなさい」
「尚さん、雅はもう俺に謝ってくれました。だから…」
せっかく雅が自分からしがみついてくれているのに、離したくない。
尚さんがじろりと俺を睨む。
正直言って、怖い。
めったに怒らない尚さんが、本気で怒ったときはどれほど怖いか、幼いころから身に染みている。
この世の中で俺が恐れるもの、それが尚さんと奏さんだ。
「…、蓮がそう言うなら、そのままでいい」
尚さんが、すうっと息を吸い込んだ。
「みやびっ!」
尚さんの怒鳴り声に、雅がビクッと体を揺らす。
「吐くほどいやなら、なぜ招待を受けたっ!」
「ご…ごめんなさい」
「大ばか者がっ!なぜ行ったか、理由を言えっ!」
再び雅の体がビクッとなる。
やっと体の震えが止まったところなのに、これ以上怯えさせたくない。
「尚さんっ。俺が事情を聞いて、あとで報告しますから、今のところはどうか…」
尚さんが再び俺を睨む。
逃げ出したいくらい、怖い。
「雅、君のしたことは、読未示の一生を左右することなんだよ。しかも、こうして蓮に抱えてもらっているところを見ると、何かあって逃げてきたんだろう?どうして、こんなことをしたんだ。好奇心?それとも、斎藤さんが好きなの?」
「ちが…う。斎藤さんが好きで行ったわけじゃない。…好奇心なんかでも…ない」
「蓮」
「はい」
「今夜中に雅から事情を聞いて、明日の朝一番で私に報告すること。もし、朝までに雅が何も言わなかったら、ここを出して斎藤さんのところへ行かせる。わかったね」
「そんな、それじゃあ雅が…」
あんなに嫌がっていたのに、かわいそうすぎる。
雅と引き離される俺だって、かわいそうだ。
「黙れっ。そんなもこんなもあるか!自分でやったことに責任を取れっ。自分がどれくらい馬鹿なことをしたのか、よく考えて反省しろ!」
「はいっ!」
思わず返事をしてしまった俺に、尚さんは笑いそうな顔になり、慌ててしかめっ面をつくると、書斎へと姿を消した。
「蓮、ごめんなさい。僕のせいで、蓮まで怒られた」
「大丈夫だ。何も心配しなくていい」
雅を部屋まで抱えていってパジャマに着替えさせ、しっかりと毛布で包む。
「寒くないか?」
「うん」
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