小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
21
「口にあわなかったかな?」
斎藤の声。
「いえ、おいしかったです。今日はお招きありがとうございました」
雅が立ち上がる音。
「え、もう帰るの?」
「もう少しいいじゃないかね」
「あまり遅くなると、家のものが心配しますから」
「そんなわけないだろう。君の父上は何もかも承知の上で、君をここによこしたはずだ。心配なぞするものか」
「やめてください!何を…っ」
もみ合っている音がする。
俺は手のひらに爪が食い込むほど、手を握りしめた。
踏み込んで、横から雅をかっさらうのは簡単だ。
だが、雅は斎藤の腕を選んだのだ。
今でさえ口もきいてもらえないほど嫌われているのに、下手に踏み込んだらもっと嫌われてしまうだろう。
「あっ…!いやっ…」
びりっとシャツの破れる音が聞こえる。
「いまさら、なぜ抵抗する!食事の招待を受けたということは、こういうことも覚悟してきているはずだろう」
「違うっ…!読未示には選ぶ権利があるっ。専属になってこういうことをするかどうかの返事は、後日でいいはずです!やめてっ!」
「雅くん、初めてじゃないだろう?あれだけべたべた山神にくっついてるんだ、山神にだって抱かれているはずだ」
「私たちはね、ただ君と親密な関係になりたいだけだ。君が専属になるのが嫌なら、みんなで共有してもいい。その山神くんとやらも、もちろん一緒にね」
何を勝手なことを言っているのか。
雅はみんなで共有して楽しむようなオモチャとして生まれてきたわけじゃない。
……だが、雅はどう考えているのだろう。
もしも、人のオモチャになることが幸せだと考えているとしたら、俺は…。
冷汗が流れる。
「いやっ!やだっ!…蓮っ、蓮、…助けてっ!」
雅が俺の名を呼んだ。
ドアノブをつかんだ手に、思いのほか力がはいっていたらしく、ノブがねじ切れてしまう。
「いやぁ!蓮、れんっ!」
「騒いだって、誰も来ないよ」
ダンッ!
ドアを蹴ってはじき飛ばした。
部屋に入ると、斎藤と敦が雅を押さえつけたまま、ぽかんとこちらを見ている。
つかつかと寄って行って、まず斎藤の襟首をつかむ。
そのまま後ろに投げてやると、天井近くまで飛んでいった斎藤は、壁に当たってから落下し、床に尻もちをついた。
「ううっ!」
尾てい骨をしたたか打ったはずだ。
痛みで声も出ないだろう。
「ひっ…」
次に敦を睨みつけると、奴は悲鳴も上げられずに青くなった。
殺してやってもいいが、雅の前でそれはまずい。
敦の顔を左手でちょいと撫でてやると、鼻血を出しながら後ろへひっくり返った。
もしかしたら前歯の一本くらいは折れているかもしれないが、奴がしたことの代償としては安いくらいだ。
「蓮っ…!」
華奢な体が腕の中に飛び込んでくる。
しっかりと抱きとめた。
シャツがぼろぼろだ。
上着もない。
「雅、帰ろうな」
俺は自分の上着を脱いで、しっかりと雅に着せた。
そのまま抱き上げ、先ほどまでドアのあった所へ向かう。
「ま…、待て、貴様…。ふ、不法侵入…だ」
俺にそう言った斎藤の声は、情けないほどか細い。
大声を出したいのだろうが、そうすると打ち付けた尾てい骨から鋭い痛みが走るはずだ。
声を出せただけでも、たいした気力だ。
雅を抱いたまま、斎藤を睨みつける。
ごくっと奴の喉が動く。
伝わってくる気配は怯え、だ。
親子でよく似ている。
「だから、どうした。訴えるとでも?」
ふん、と鼻で笑ってやった。
「好きにしたらいいだろう。だが、その時には、自分が男子高校生になにをしようとしたのか考えるんだな。ドアの修理代は、遠慮せず請求してくれて結構だ」
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