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小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
19
「わかってる。でも、専属になるかどうかの返事は、食事をしてから1〜2週間のあいだにすればいいんでしょう?だったら、何人かと食事してみて、その中でよさそうな人を探すよ」

「君、専属になることの意味がわかって言ってるの?」
「わかってる」

「本当に?専属になるということは、囲われるということだよ。日下部の家から出て、蓮とも離れて、身体ひとつで相手の家に行くんだよ。ここに戻ってくることは許されなくなる。…何もかも捨てて行けるのかい?そもそも雅は、人に囲われるということがどういうことだかわかっているの?心も体も相手に差し出すことだよ。そんなことができるの?」

「尚、子ども相手に言い過ぎだ」
奏さんが尚さんをたしなめる。

「雅はもう子供じゃない。囲われることの意味がわからなくて、どうして専属になれる?」

「囲われることの意味は、わかってる」
雅が下を向いたまま、つぶやくように言う。

尚さんの眉がピンとはねあがった。
「ねえ、雅。日下部の読未示は、1500年前に山神の狼男に会うまでは、誰かの専属になることで生きながらえてきたよ。だけどそれは、自ら望んでそうしたわけじゃない。一族を守るために仕方なくしてきたことだ。君は好きでもない奴の慰みものになりたいの?」

「尚!」
「奏はだまってて。どうなんだい、雅。そんなことがしたいの?」

「…い…」
「え?」
「したい」

「…、君がそんなに馬鹿な子だったなんて、がっかりだよ。明日までに君を欲しがっている人のリストを作っておくから、好きにするといい。君の顔を見ていると、食事がまずくなる。部屋に戻りなさい」

尚さんの手が、かすかに震えている。
雅はなにも言わずに、ダイニングを出ていった。

俺はといえば、ショックのあまり立ち上がることさえ出来ずにいた。

雅は日下部の家も俺も捨てて、他の誰かのものになる決心をしたのだ。
胸が苦しくて、痛い。

「大丈夫か、蓮。真っ青だぞ」
奏さんに言われて、自分の顔が青くなっているらしいと気付く。

尚さんが珍しく心配そうな顔で俺を見た。
「蓮、雅がどこかへ行ってしまってもいいの?」

俺は何度か試みて、やっとの思いで声を絞りだした。
「雅が、それが一番いいと決めたのなら…」

「雅も馬鹿だが、蓮も馬鹿だね」
尚さんがテーブルの上にナプキンを投げて出ていってしまった後、奏さんがそっと俺の肩に手を置いた。

「しっかりしろ。あの様子では、雅は絶対に後悔する。そうならないために、あの子を守れ。何があっても、雅から離れるな。いいな?」

俺は頷くのがやっとだった。



翌日。
雅はおはようの挨拶すらしてくれなかった。
話しかけても俯くばかりで、返事すらしてくれない。

電車の中で、いつもどおり雅を抱き込もうとした俺に、
「…だめ…」
俯いたまま、小さな声で言う。

朝起きてから、初めて聞く雅の声だ。
思わず、心の中で尻尾をふって、
「ん?何がダメ?」

身体をかがめてのぞき込もうとした俺を制するように、雅の顔が上がった。

黒曜石のような瞳に、今にも泣きだしそうな色が浮かび上がっていて、ドキッとする。

「触っちゃダメ」
小さな唇が、はっきりとそう言った。

狼の姿をしていたら、尻尾を垂れて、耳を後ろにたおしていただろう。

雅の体に触れないように電車の混雑から守りながら、俺は途方にくれた。

俺の何かが雅を傷つけ、こんなに悲しそうな瞳で“触っちゃダメ”と言わせてしまったのだろうか。

どうすればまた元のように、笑ってくれるのだろう。
どうすれば専属になりたいなどと言わずに、俺のそばにいてくれるのだろう。


「雅くん、おはよう」
教室に入ってすぐ、敦が雅に話しかけてきた。

雅は俺のほうを見もせずに、敦の言葉に頷いたりほほ笑んだりしている。

「元気がありませんね。雅を放っておいていいんですか?」
朱牙の心配そうな声が、後ろから聞こえた。

「雅が決めたことだ」
俺は雅から目を離さずにそう答える。



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