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小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
18
頭を冷やして何を考えろというのか。
今のままの俺でいたら、どうして雅を失うのか。
そもそも、失うもなにも雅は俺のものじゃない。

そう考えると、痛いほど苦しくなる。
雅は俺のことをどう思っているのだろう。
俺が雅のことを恋愛の対象と見ているようには、見ていないだろう。

俺が人の姿でいるときには、仲のいい友人。
狼の姿でいるときには、かわいいペット。
それくらいにしか思っていないはずだ。

軽くため息をついて、顔を上げた。
もうすぐ昼休み終了の鐘がなる。
この学校で、いつまでも雅をひとりにしておくわけにはいかない。

「山神さま」
教室に戻ろうと、中庭から校舎に入るための小さな階段を上がりきったところで、後ろから声がかかった。

振り向かなくても、声の主はわかる。
女学院の生徒会長、大河原・麗華<おおかわら・れいか>、もと華族で、天皇家の親戚という家柄に生まれた、本物のお嬢様だ。

この俺が思わずていねいな言葉を使ってしまうほど、身のこなしも言葉づかいも、浮世離れしている。

「大河原さん、女学院の生徒が許可もなしに、しかも一人で学院にくるのは、校則違反ですよ」
俺の言葉に、麗華はにこっと笑って階段をあがってきた。

「ごめんなさい。内緒にしておいてくださいね。とても大事なご用でしたのよ。…これを」
麗華はクリップで挟んだ分厚い書類を俺に差し出した。

「榊原さまとご覧になっていただきたいの。二か月後の学院際の書類ですわ。よろしければ、来週あたりからお話し合いを進めていきたいのですけれど」

学院際のことなど、すっかり忘れていた。

朱牙と俺は学院側からの指名で、この三年間、生徒会長と副生徒会長を務めている。

別に、朱牙や俺がとくに成績優秀だとか、品行方正だとかいうわけじゃない。

女学院で生徒会長に選ばれるのは、一番家柄のいいお嬢様だ。
そういうお嬢様は、生まれた時から許嫁が決まっている。

もし、許嫁以外の男と、万が一何かがあれば、政治的にも経済的にも非常にまずいことになる。
その点、朱牙や俺のような、家柄も何もない生徒ならば、お嬢様と間違いをおこしても、簡単に首を切ってしまえるし、あとくされもない。

ようは、なにかあってもすぐに首を切れる生徒が選ばれた、ということだ。

朱牙や俺のような、家柄も金もないものを、お嬢様がたが本気で相手にするわけはない、といった学院の甘い考えも多分にあると思う。

それはさておき、女学院の生徒会と学院の生徒会は、年間を通して一番大きな行事である学院際が円滑に行われるよう、綿密な話し合いをしなければならない。

「わかりました。誰かに見つからないうちに、女学院に戻ったほうがいい」
「ええ、では、ごきげんよう。…きゃっ」

軽く会釈をして体の向きを変えようとした麗華が、足をすべらせた。
良家のお嬢様が階段から落ちるのはかわいそうだ。

とっさに手をつかんで、踊り場に引き戻す。

雅よりふっくらしているように見えたので、体重もあるだろうと力を入れすぎた。
麗華は意外なほど軽くて、思いがけず俺の胸に飛び込んでくるかたちになってしまった。

「大丈夫ですか?」
麗華がしっかりと立ったのを確認してから、体を離す。
「ええ、あの、ありがとうございます。…ごきげんよう」

良家のお嬢様は真っ赤になって、逃げるように走り去った。

ふと雅の気配を感じて、教室の窓を見上げる。
誰もいない。
雅のことばかり考えているから、やきがまわったらしい。


〜〜〜〜〜〜〜

「尚さん」
夕食の席で、雅が下を向いたまま口を開いた。

昼休みに俺から逃げるように教室に行ってしまってから、雅の様子はおかしい。

俺と目線を合わせることもしないし、触れようとすると体を固くしてうつむいてしまう。
話しかけてくることもない。

「なに?」
「食事の招待を受けてもいい?」

その言葉に、俺は息をのんだ。
尚さんも奏さんも、びっくりしたように雅を見ている。

「だれか一緒に食事をしたい人がいるの?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ、誰の招待を受けるの?」

「まだ、決まってない。でも、そういう電話は、いっぱいかかってきてるでしょう?」

雅の言うとおり、ぜひとも雅と食事をしたいという電話や手紙はよくきている。
去年の夏に、尚さんのピンチヒッターとして雅が未来を読んだVIPや、そいつらから話を聞いた有力者たちからだ。

今までは、尚さんがすべて断ってきたはずだ。

「雅」
尚さんが、箸をおいて少しきびしい顔で雅を見た。

「自分のことを大切にしなさい。読未示が仕事を請け負った相手と食事をすることの意味は、古来から変わっていない。その人の専属になりますということなんだよ。みんな、それを知っているから、君を食事に招待したがるんだ」

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あきゅろす。
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