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小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
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「そんなこと…。斎藤くんのお父さんの判断がよかっただけだよ。僕は何もしていない」

「いや、九死に一生を得たと、一族のものも雅くんにとても感謝している」
敦が雅の手を握ろうと一歩前に出てきたので、素早く肩をつかんで引き寄せた。

敦はちらっと俺を見たが、何事もなかったように、嘘くさい笑みをうかべて雅と目を合わせた。

「雅くん、父がお礼に食事にご招待したいと言っているんだが、どうだろう?」

俺は思わず敦の顔を見た。
大昔から、読未示を食事に招待するということには、意味がある。

専属になって、身も心も未来を読む才能も、すべてのものを差し出してくれないかという誘いなのだ。

専属になれば、日下部の家を出て、囲われた生活をしなければならない。
人に会うことも、外出することも制限される。

そのかわり、専属になった読未示ばかりか、日下部の一族すべてに、身の安全と贅沢な暮らしが保障される。

だが、それは大昔のことだ。
現代では、日下部の一族は自分の力で収入を得ているし、読未示は未来を読むことで大金を得ている。

一番の問題である身の安全も、山神の一族が保障しているのだ。
だから、現代における食事への招待は、愛人になってくれというお願いのようなものだ。

山神がボディガードに付くようになってから、どこかの有力者の専属(愛人)になった読未示は一人もいないはずだ。

敦は無邪気をよそおって、友人らしく食事に招待しているが、その意味を知らないはずはない。

俺は雅の前に出た。
「せっかくだが、雅は友人以外のものとは食事をしない」
お前は友人じゃないと、言外に言う。

敦が、またお前か、という顔で俺を見た。
「山神はただの使用人だろ?口をはさむなよ」

ずいぶん強気だ。
日下部のことを少しは調べたらしい。

雅が俺を押しのけて、敦にむかって右手を振りかぶったのを、後ろから抱きとめる。

普段はとても穏やかな雅だが、手がつけられないほど怒り出すことがある。
俺を使用人と言われたときだ。

どうでもいいことだが、朱牙と由羅を除いたこの学校の生徒たちは、俺が雅のボディガードとして幼いころから雅のそばにいることを知ると、俺を憐れむような、蔑むような目で見る。
ここは、そういうところだ。

俺の腕の中でじたばたしていた雅が、暴れるのをやめて、敦を睨みつけた。

「蓮は、使用人なんかじゃない!蓮には、君なんか足元にも及ばない、古くから続く誇り高い血が流れてるんだっ!」

「雅、もういい。大丈夫だから」
「大丈夫なんかじゃない!蓮は僕の…っ」

雅はなにか言いかけて、悔しそうに唇を噛んだ。

「なっ、何をそんなに怒っているんだ。山神は使用人だから、雅くんと一緒にいるんだろう?」
「そのとおりだ」

俺が敦の言葉を肯定すると、腕の中の雅が体を固くした。

「山神の家は、古くから日下部に仕えてきた。俺にはボディガードとしての責任がある。雅を危険な目にあわせるわけにはいかない」

「僕の父と食事をするのが、危険だとでも?」
「少なくとも、俺にはそう見える」

二人でにらみ合った。
先に目をそらしたのは、今度も敦だ。
俺の何が怖いのか、奴の体からは怯えた臭いがする。

「雅くん、改めて君の父上を通して食事にご招待するよ。山神では話が通じないみたいだから」

敦は目をそらしたままそう言うと、逃げるように行ってしまった。
その姿が見えなくなってから、ゆっくりと抱きとめていた体を話した。

それまで下を向いていた雅が、悲しそうな顔で見上げてくる。

「?どうした?」
「な…んでもない。僕、先に教室に行ってるね」
「あ…?おい!」

俺を振り切るように、雅は走って行ってしまう。

「蓮のばかっ」
いきなり、由羅に胸を叩かれた。
「なに?」

「ばかばかっ!今、みやちゃんがどんなに悲しかったか、まるで分かってない!」
由羅はめちゃくちゃに俺を叩いてくる。

痛くはないが、どうしてこんなに由羅が怒っているのか、見当もつかない。
あ然と由羅を見ていると、

「やめなさい」
朱牙の腕が由羅をかかえこむ。
「だってっ!」

「蓮、由羅が君を叩いたことはあやまります。ですが、私も由羅と同意見ですよ。いまのままの連でいたら、そのうち雅を失うことになります」

「いったい、何のことだ」
「頭を冷やして、よく考えてください。…由羅、行きましょう」

朱牙も少々イラついているようで、ふいと向きを変えると、由羅を連れていってしまった。




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あきゅろす。
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