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小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
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まっすぐな廊下のつきあたり、尚さんがいつも仕事に使っている部屋の前に立った。

もうすでに部屋の中で心を落ち着けている雅の邪魔をしないよう、ノックをせず静かにドアを開ける。

何の飾りもない、ガランとした10畳ほどの部屋。
ドアから一番遠い部屋の奥に、読未示が座る大きな椅子。
今日はそこに雅が座っている。

そして、ドアに一番近いところに、依頼主用の大きなソファと低いテーブルが置かれている。

俺は足音をたてないよう、未来を読むときの俺の定位置、雅の左後方に立つ。

雅のひざの上には、紫色の布が広げられ、その中央に手のひらに乗るくらいの、小さな青銅の鏡が置かれている。
これは、雅が未来を読むための導具ーどうぐーだ。

読未示によって使う導具がちがう。
尚さんは小さな水晶の珠を使っているし、過去には何も使わない読未示もいたらしい。

やがて、静かなノックの音がしてドアが開いた。
入ってきたのは、50歳くらいの男だ。

銀色の豊かな髪をオールバックにして、高価そうな布地でできたスーツを着ている。
顔は、成功した者の自信に溢れていて、身のこなしはやわらかく、素早い。

目が敦にそっくりだ。
周りの人間の痛みなど理解しない、冷酷な光を宿した瞳。

その目が雅を一瞥して、きらりと好色そうに光る。
俺は心底ぞっとした。
この男がまとう、かすかな葉巻の臭いも気に食わない。

「初めておめにかかります。ジャパン・ワイナリーの、斎藤と申します」
よく通るテノールの声だ。

話し方は丁寧だが、言葉に含まれる響きは、あきらかに雅をバカにしている。
こんな子供に何ができる、といったところか。

客でなかったら、襟首をつかんでつまみ出しているところだ。

「座ったままで失礼します。僕が日下部・雅です。どうぞ、お座りください」
雅の声は柔らかくて静かだ。

それなのに、気品と威厳に満ちあふれている。
普段のよく笑う雅もかわいらしいが、未来を読むときの威厳のある大人びた雅は、また格別だ。

「ご相談は、3日後の企業合併のことでしたね」
雅の、細いかわいらしい指が、そっと鏡の表面にふれる。

「…合併、というより、ジャパン・ワイナリーが相手方を傘下に収める、ということのようですが…」

斎藤の目が、驚いたように見開かれる。
馬鹿め、雅がその気になったら、読めないことなどあるものか。

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あきゅろす。
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