小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
12
雅は読未示のあとを継ぐ子供を作らなければいけない。いずれはどこかの女性と結婚するのだろう。
そして俺は、この気持ちに蓋をして、雅を守ることだけに専念していればいいのだ。
雅を自分のものにするなど、夢のまた夢だ。
尚さんは俺の顔をしばらくながめたあと、奏さんを振り返った。
「奏、やっぱり蓮は昔の君に顔がそっくりだよ。君はいつも無表情だったけど、蓮は考えていることが顔に出るぶん、かわいらしいねえ」
尚さんに俺の考えていることが分かるわけがないと思う。
父親ならば、自分の息子が男に思われて、こんなに嬉しそうにするわけがない。
「あんまり蓮をからかうな。俺はこいつにちゃんと教えたぞ」
「でも、覚えてないみたいだ。そうでなければ、いまだに雅がヴァ…」
「おい、尚」
尚さんは、奏さんに止められて、口をつぐんだ。
俺は二人が何を話しているのか分からなかったので、二人を観察していた。
尚さんも奏さんも、ずいぶん若く見える。
せいぜい20代後半といったところだ。
だが、雅は18歳だ(俺もだが)
仮に尚さんが29歳だとしたら、11歳で子供を作ったことになる。
やって出来ないことはないのかもしれないが、まずそれはありえないだろう。
ということは、尚さんと奏さんは、とても若作りの美中年(そんな言葉あっただろうか)ということになる。
「ねえ、蓮」
しばらく奏さんと見つめ合っていた尚さんが、こちらに顔を向けた。
そのとき、尚さんの左手の薬指にある指輪に気が付いた。
細いプラチナを編み込んだような、繊細な細工の指輪だ。
よく似たものを、奏さんが鎖を通してネックレスにしているのを見たことがある。
「ああ、これ?」
俺があんまり見ていたからだろう、尚さんが嬉しそうに手を差し出した。
「奏とおそろいなんだ」
………まさか、な。
俺は頭に浮かんだ考えをふりはらった。
「蓮」
尚さんがもう一度俺の名を呼ぶ。
「はい」
「いつまで、我慢している気?」
「…、なにをですか?」
「わからない?」
「俺はべつに、我慢していることなんかありません。…話がそれだけなら、そろそろ雅のところへ行ってもいいですか?」
いつまでも、こんなわけのわからない話を続けていられない。
雅と離れたことによる俺のイラつきは、限界点に達しようとしている。
「うん、もう行っていいよ。忘れないで、蓮。悩むことも、我慢することもないんだよ」
俺は尚さんの言葉を聞き流し、一礼して部屋を出た。
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