小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
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雅の父親、日下部・尚<くさかべ・なお>がしごとばにしているのは、南青山の閑静な住宅街にある平屋建ての一軒家だ。
建物はそれほど大きくないが、世界中からVIPがやってくるため、家の周りは広い庭になっていて、刑務所のような高い塀で外界とへだてられている。
尚さんは、玄関で俺たちを迎え入れてくれた。
その後ろに不機嫌そうな顔でむっつりと立っているのは、尚さんのボディガードをしている狼男で、山神・奏<やまがみ・そう>。
俺の親父の兄貴の息子。
つまり、俺の年上の従兄だ。
奏さんは、俺に都会に住む狼男のノウハウを教えてくれた人でもある。
尚さんは俺たちを応接間に招き入れ、お茶をいれてくれた。
そして、
「すまないな、雅。これも、去年わたしが倒れたせいだ。申し訳ない」
と、本当にすまなそうに頭を下げる。
「尚さん、気にしないで」
(面白いことに、雅は父親を名前で呼ぶ)
「病気は尚さんのせいじゃないもの。それに、僕は平気だよ」
雅はにっこり笑ってそう言うが、まったく尚さんの言うとおり、こんなことになったのは尚さんのせいだ。
ふつう、日下部の読未示が仕事として未来を読むのは、大学を卒業してからだ。
ところが去年の8月、急な腹痛で尚さんが入院。
原因は虫垂炎、いわゆる盲腸というやつだ。
間の悪いことに、断ってはいけない顧客(S国の王族やF国の首相、A国の大統領などだ)からの依頼が立て込んでいるときで、やむを得ず雅が尚さんの代理を務めたのだ。
俺はよく知らないが、雅は歴代の読未示たちの中でも、その能力が強いほうらしい。
加えて、このかわいらしさだ。
VIPのあいだで噂はあっという間に広がり、ぜひ雅に未来を読んでくれという依頼がひんぱんに来るようになった。
俺としては、雅をVIPのスケベ親父の前に出すのは非常に面白くない。
奴らは雅の読未示としての能力も欲しがるが、雅自身のことも欲しがる。
いくら出せば雅を自分の専属(ようは、妾のように囲う、ということだ)にできるかといった、失礼な問い合わせすらある。
さすがの尚さんもこれには困ったらしく、雅への依頼は断ってくれるようになった。
だが中には今回のように、日下部の親戚筋をたどっての、断り切れない依頼もある。
「蓮にもすまないと思っているよ」
尚さんは俺にもすまなそうに言うが、俺はその手には乗らない。
この人は顔だけ見ればきれいだが、その実、結構な策略家だったりするのだ。
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