小説1 (高校生狼男×高校生占い師) 完結
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「雅<みやび>、早くしろ!遅刻するぞ!」
俺は庭から家の二階にあるダイニング(中世ヨーロッパの王侯貴族の食事室、みたいな部屋だ)に向かって叫んだ。
この日下部<くさかべ>の家は、庭も建物もやたらに広くできている。
ダイニングの窓に、日下部家の執事(この21世紀の世の中に、執事だ!)である、夜来<やぎ>さんの姿が見えた。
かっちりとスーツを着こなし、髪をオールバックに整えたその姿は、俺が五歳のころから変わらない。
「もう少し、お待ちください」
いつも落ち着いていて、あわてるということがない夜来さんは、落ち着いた声でそういうが、雅と俺が行っているのは、日本でも指折りのハイソサエティな学校だ。
遅刻一回で天地がひっくり返るような大騒ぎをされ、死ぬほど説教を聞かされる。
もう少し慌ててくれないと、やっかいなことになる。
「夜来さん、間に合いません!雅をそこから投げてください!」
「かしこまりました」
夜来さんは頷いて、いったん窓際から姿をけし、すぐに俺とおなじ制服を着た雅を小脇にかかえるようにしてやってきた。
普通の人間にしては力持ちの夜来さんは、
「まず、カバンからいきます」
と、落ち着いた声で言い、雅のカバンを落としてきた。
俺がそれを受け止め、いったん地面に置いたのを見てから、
「次は本命です」
夜来さんの唇がうっすらと笑みの形をつくり、雅の体がみごとな放物線を描いて投げ出される。
俺は2〜3歩まえへ出て、しっかりと両腕で落ちてくる体を受け止めた。
雅の目がゆっくりと開き、黒曜石の美しい瞳が俺を映して笑う。
倒れそうなほど、かわいい。
雅を横抱きにしたまま膝をつかって身をかがめ。左手の人差指にカバンふたつをぶら下げる。
「時間がない。駅まで走るぞ。しっかりつかまってろよ」
「うんっ」
雅の腕が、俺の首にぎゅっとからみつく。
たまらなくいい気分だ。
広い庭を雅を抱いたまま走って横切り、高さ3mの塀のうえに飛び乗る。
そこから足音をたてないように、隣の家の屋根にとび移った。
「れ、蓮、屋根伝いに行くの?」
雅の唇から、不安そうな声がもれる。
「あたりまえだ。雅を抱いたまま道を走ったら、人目につくだろう。怖かったら、目を閉じているといい」
「ん」
雅の顔が俺の制服の胸にうまる。
その姿がどうしようもなく愛しくて、抱えた腕に少しだけ力をいれた。
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