[携帯モード] [URL送信]
暗黒薔薇猫
―さあ、今日という日をみんなで祝福しよう。それが永遠のうちのたったの一瞬の出来事であっても、二度と戻らない「僕たち」だけの日を……




beatitude






今日は僕たち「鬼太郎」だけのパーティーを開こうとみんなで松岡君の家にそれぞれの手に食べ物などが入った籠を持ち寄って集まって来ていた。本当は戸田君の家にしようとか案は出ていたのだけれど戸田君曰く「今日は女の子だけで集まって喋りたいから家を貸してくれない?」と言われそのまま貸してしまったかららしい。三田さんと夢子ちゃんのことだから今頃楽しくおしゃべりしてるんだろうなぁと思っていると戸田君がすくっ、と立ち上がって声を発した。

「それじゃあ今年で僕たち『ゲゲゲの鬼太郎』が生まれて四十周年を祝して乾杯といこうか!」
「うんそうだね」
「早いなぁ、もう四十周年かぁ」
「松岡君それじゃ年寄りみたいだよ」
「じゃあ戸田君祝いのキメ台詞を!」
「なんかあらためて言うと照れるなぁ……」

戸田君はほんのり顔を赤くして頭を掻いた。でもすぐゴホンッと軽く咳ばらいして自分のコップを手に持つ。

「それじゃあみんな、今日を祝して乾杯!!」
「「かんぱーい!!」」

僕たちは持っていたコップを掛け声と共に上高く上げ互いのコップをカチン、と軽い金属音を立てて当てた。もちろん中身はただのオレンジジュースだ(でもその後今日だけだから、とあらかじめ持っていたお酒を飲んで戸田君や松岡君が酔い潰れたのは言うまでもない話だけど)中味を少し飲んだ後みんなそれぞれ持ってきた食べ物をちゃぶ台の上に広げていく。

「僕からは、はい!魚料理とかまぼこだよ!」
「わぁ野沢君のおいしそう!」
「猫ちゃんからも手伝ってもらったからね。そういう戸田君のは?」
「僕のは猫娘と夢子ちゃんから持たされたんだ。是非みんなで食べてって」
「本当だ!おいしそうなお菓子がいっぱい入ってる!」
「僕は父さんと一緒に作ったよ」
「でも煮物とか凄いですね。僕こんなにうまく作れませんよ」
「そういう高山君は何を持ってきたんだい?」
「僕のは家にある有り合わせしか作れなかったのでこんなのしか出来なかったんですけど…」
「でも上手く作れてるじゃないか。さすが器用だね高山君」
「ははっ、ありがとうございます」
「じゃあ全員出したところでみんなで食べよっか」
「うん、そうしよう!」
いただきますっ!とみんなで言ったところでそれぞれみんな違う皿に箸を伸ばす。どれも美味しくて僕は久しぶりにお腹いっぱいに食べた。いつもは軽食で済ますからむしろ食べすぎたくらいに。
いくらか時間が過ぎた頃に僕はある人物が来ていないことに気付いた。

「あれっ?」
「どうしたの高山君?」
「あっそれが墓場君がまだ来ないなぁと思って」
「えっ、墓場さんが来るのかい?」
「一応声はかけたんですが…手土産は無理しなくていいって言ったんですけど」
「墓場さんは気まぐれなところもありそうだし…気長に待っていたらいいんじゃないかな」
「そうですね…でももしかしたら迷子になってるかもしれないし、僕ちょっと外行って見て来ます!」
「そう?じゃあ気をつけてね高山君」
「はい行ってきます」

「……(墓場さんって迷子になるのか?どちらかというと迷っても平気そうな気もするけど…)」
「どうしたの戸田君?さっきから黙っちゃって」
「えっ、いや、ほらそんなことより高山君は抜けちゃったけど食べ直そうよ!」
「あぁ、でも高山君と墓場さんの分も残しとかなきゃね」
(高山君…大丈夫かな……?)


戸田君のそんな思いも今の僕には全く考えつかないことで、僕はというといつも墓場君が通る道を思い出しながら道を辿って行く。電気も街頭もないこの森には唯一月の光だけが僕たち妖怪の灯火であり人間界の中の太陽だと言ってもいい。もとより暗いのに慣れてしまっている僕たちは明かりなど必要ないのかもしれないけれど。

ふと、僕は足を止めた。
そこには木々に囲まれた大きな池とその池に映った今にも掴めそうな位置にぽっかりと月が浮かんでいたからだ。
夜のせいかどこか神秘的な要素を含んでいるこの池は普段は目にも留めないであろう。しかしこのときの僕はその美しい景色に目を奪われてしまっていた。
池に近づくと先程までは気付かなかった人影が見えた。その影はぴくりとも動かずただ座った間々池の源に映る月を眺めているだけだった。逆光のせいで姿形からはとても誰かと見分けるには至難だったがなぜか僕には雰囲気的みたいなもので直感でそこにいる人物が誰だかわかった。

「墓場君…」
「…高山か」
「こんなところで何してるんですか?皆もう集まってるし、墓場君も…」
「もしかして迎えに来てくれたのか?」
「はい。墓場君が来るのが遅いから途中で迷子になってるんじゃないかと思って」
「………」
「とりあえず皆のところへ行きましょうよ。……墓場君?」
「……先、行っててくれ。僕は後で行く」

「…何かあったんですか?」

問いても彼から返ってくる返答はない。相変わらず目線だけは空に浮かんでいる大きい月を捉えて目を泳がせない。仕方ないから僕も彼の隣に座り空を仰ぎ見た。雲一つないところをみると明日は晴れるかな、とかどうでもいいことばかり考えてしまう。
いくらか時間が過ぎた頃ようやく彼が口を開いた。しかし顔は合わせない間々に。

「慣れてないんだ」
「えっ?」
「……こういう皆で集まって何かすること、とか。全然」

僕は友達とかいなかったから、と話す彼の表情はいつもと変わらないはずなのに声色はどこか物寂しい感じに聞こえた。でももしかしたら表情も悲しんでいたのかもしれないと僕は思った。しかしそれは月のほうに顔を向けていたのと月の光りが顔に当たり陰になっていたことからその表情は依然確かめられることは出来なかった。
顔をそっちに向けていたのはそのためだったのか、なんて彼に聞けるはずもなく僕はただその言葉に頷くことしか出来なかった。彼はきっと僕よりもずっと辛い思いをしながら生きていたに違いないと思う。証拠に僕は彼が今だかつて笑ったことがないことを知っていたからだ(正確には笑ったことがない、ではなく『心から』笑ったことがない、というのが正しいのかもしれない)
彼は自分の過去を嘲笑して話すことも泣きながら誰かに縋るように話したりもしない。かと言って過去を隠しているわけでもない。自分からは全く喋らないだけなのだ。そんな彼を見ていると彼がとても大人に見え、まるで自分がとてもちっぽけな存在になったような感じがした。彼のほうが僕よりも遥かに年下だというのに。なんだか情けないような恥ずかしいようなよくわからない変な気持ちに駆られた。

「でも僕は墓場君のこと、友達だと思っていましたよ」

今度は彼がやっと僕のほうに顔を向けた。意外とでもいいたげなその顔は面食らったような驚いた表情をしていた。そんな彼が面白くて僕は彼に気付かれないように軽く微笑した。

「僕にとって松岡君も戸田君も野沢君も大切な友達です。もちろん墓場君も僕はずっと友達だと思っていました。…墓場君にとって僕達はどうなんですか?友達だとは思ってくれませんか…?」
「……僕は…」

そこで彼が少し言葉を濁す。うまく言葉が見つからないみたいで必死に口をもごもごと動かしている。僕はただ次に彼が発する言葉を聞き逃さないように黙って待っている。暫くすると彼は小さく、それでも僕にもはっきり聞こえる声で話し始めた。

「…僕は、おまえ達のことは嫌いではない。でもよくわからない。『友達』なんて長いこと僕にはなかったから、感覚が麻痺してるんだ……それでもおまえ達は僕のことを『友達』だと思ってくれるのか…?」
「はい。きっと松岡君達だってそう思ってますよ」
「…そうか」

じゃあ、と言って彼は立ち上がり僕を見下ろして言う。

「おまえは僕の友達だ、高山」

月を背にして僕を見つめながら言う彼がとても大きい存在に見えてしまう。その顔はいつもの意地悪い表情ではなく子供のような無邪気な表情だった。僕はそんな彼の顔を見て一気に顔に熱が篭ったのが自分でもわかったが彼に気付かれないように笑顔で彼に答えた。

「はい。友達です」

僕も立ち上がり今度は僕が頭一つ分低い彼を見下ろした。彼は今だに笑みを崩していなかった。


「おまえが女だったら僕の婚約者にしてやれるのに…」
「えっ、すみませんよく聞き取れなかったんですけど何かいいました?」
「いやなんでも」

それより早く行こう、と彼は言いながら先に歩いて行ってしまったから僕はさっきの話の内容が気になりつつもまあいいかとそれを頭の片隅に追いやり慌てて歩きだした。隣になって歩く僕の手を突然握った彼に少々驚きながらも僕は敢えて何も言わず彼の手を握り返した。その小さい手は懐かしい温かみを僕にくれるかのように強く握り返したのだった。
その後松岡君の家に着いた僕たちはなぜか酒を呑みながら喧嘩をしている松岡君と戸田君にそれを遠巻きに面白そうに見ている野沢君に呆れながらも僕は喧嘩の仲裁をする羽目になってしまった。

「やっぱりおまえら面白いなぁ」

墓場君は適当に座り僕たちの光景をケケケッと笑いながら楽しんでいたのだった。






今日という日を皆で楽しもうじゃないか
(それは至福、至上の幸福、僕たちだけの楽しみ)








†あとがき

鬼太郎アンソロジー二回目おめでとうございます!そしてその素晴らしいアンソロジーに参加しさせてもらってありがとうございます!皆様の素敵過ぎる作品の中に自分の作品を入れても大丈夫なのか今だに不安です(汗
お題に添えているかはわかりませんが歴代鬼太郎達のほのぼのっぷりが表現出来ていたらなぁと思っています。途中墓高風味になってしまいましたがそこはご愛嬌ということで(^ω^;)

そして「ゲゲゲの鬼太郎」アニメ四十周年おめでとうございます!これからの期待を陰ながらも応援しています。


[*前へ][次へ#]

6/21ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!