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リナ
いつからか、嫌なことがある度に眠るようになった。

柔らかい布団に潜ればすぐに意識は遠退く。現実を振り切るこの瞬間が一番安心すると気付いたからだ。
僕は妖怪と闘わなければならない。誰かのために。世界のために。もしかして自分のために?弱音は吐けない。
けれど僕は何かを救えるほど強くないから、本当はいつも、すべてが怖くてたまらなかった。




『高山くん、』

今まで眠れば色んな夢を見た。楽しい夢もあれば怖い夢も。そして最近は不思議な夢を見るようになった。

「……野沢くん?」

その夢の登場人物は僕と似ている三人。けれど微妙に背格好が違い、声も違う。性格も違うと思う。
僕は彼らに高山と呼ばれる。彼らにも野沢、戸田、松岡と名前があるけれど、全員゛鬼太郎゛には違いない、とよく分からないことを教えてもらった。
僕はこれが俗に言う多重人格というものなんだと最初は思っていた。

『高山くん、元気?』

今日の夢はその三人の中の野沢くん、一人だけだった。彼は僕らの中で見た目は幼いけれど、意外にも一番歳上らしい。

「元気だよ。」

野沢くんの問いに当たり障りのない返事を返した。すると野沢くんが表情を変えた。僕の顔を窺うように丸い目をこちらに向ける。

『……そうかな?』

「え?」

『疲れてない?』

「……………」

どき、と胸が鳴る。

「そんなことないよ。」

『…高山くん。僕は同じ鬼太郎なんだから、君のことは誰よりも分かる。だから隠さなくていいよ。』

「……………」

これは自分の夢の中だけのこと。彼の言う通り、本音を言っても大丈夫なんだと分かっている。けれど僕はそれ以上言葉を続ける気にはなれなかった。



『高山くん。』

僕が何も言えずにいると、野沢くんが再び口を開いた。僕を真っ直ぐに見ている。


『高山くん、』

「……はい。」

『僕は、君が好きだよ。』

「え?」

『高山くん。最初に僕が生まれて、次に戸田くん、次が松岡くんで、そして君が生まれたってことは前に話したよね。』

「そう、だね…。」

『僕と君は四十ほども歳が離れているんだよ。それほど長い間愛されて生まれて、生きている。僕も戸田くんも松岡くんも、そして君も。』

「僕も…?」

『うん、愛されなければ何もなかった。僕たちは存在しなかった。僕たちは必要だからこそ生まれて、生きているんだよ。』

「…………」

『闘うのは辛いでしょう。僕もそうだった。でも君にしか出来ないから君が選ばれたんだ。君が、゛鬼太郎゛でなきゃ駄目なんだ。』

「…………」

『高山くん。強くなくていいんだよ。頑張らなくていいんだよ。君が生まれてくれただけで、僕たちは嬉しかったから。』






何を思って野沢くんが急にこんな話をし出したのかは分からない。けれどその話は妙な説得力があって、また彼が真剣に言うものだから、僕は最後まで返す言葉が見つからなかった。


『君がいるだけで救われる人もいる。忘れないでね。君は愛されてるってこと。』

野沢くんは付け足すようにそう言うと、静かに僕に笑いかけた。










「鬼太郎!」



甲高い叫びが耳に届いて頭に大きく響く。その声と共に夢は終わり、現実に帰されたことがすぐにわかった。
ゆっくり目を開くと、そこには声の主、見慣れた顔があった。

「鬼太郎、大丈夫か。」

「父さん……」

父さんが心配そうに僕の顔を覗きこんでいた。何を心配しているんだろうと思いながら上体だけ起こすと、頬に冷たいものが伝った。

「………」

「泣きながら寝ておったぞ。大丈夫か?」

「泣きながら…?」

夢の内容を思い返した。確か野沢くんが出てきて、多少話をしただけだ。

「恐ろしい夢でも見たのか。」

「……………」



父さんが心配そうに僕を見上げる。
僕はそんな父さんに笑顔を向け、大丈夫です、幸せな夢でしたよ、と言った。すると父さんも気が抜けたように笑ってくれた。

そしてぬるい布団から抜け出す。肌に直接当たる空気がやけに冷たく感じた。

外はもうすぐ日が暮れる。

ようやく僕に、朝の始まりが告げられたような気がした。






†あとがき

初めまして。鬼太郎モバイルアンソロジー第二弾、おめでとうございます!

テーマはおめでとうアニメ40周年、と言うことで、アニメ初代の野沢くんと当代の高山くんで書かせていただきました。全然おめでとうという雰囲気もなく、捏造だらけの気もしますが書いてる本人はすごく楽しかったです。(笑)
小説の本文にもありますが、本当に愛されているからこそここまで続いた作品だと思います。これからも鬼太郎は50年60年70年と、どんどん続いて欲しいです。

では最後になりますが、管理人の蒼居様には心からお礼を申し上げたいと思います。
そしてもっともっと鬼太郎が愛されることを願ってやみません。本当にありがとうございました!


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あきゅろす。
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