落ちる夢の話(夕張ろ) 3〈夢〉 再び落ちる夢を見た。 相変わらず落ち続けるだけで、上に光もなければ、地に着く気配もない。 ただ一面の黒い色。 闇。 だからもしかすると、本当は下ではなく上に進み続けているのかもしれない。 しかし、私の体は今多分逆さになっている。 頭は下にあり、足が中途半端に曲げられたまま上に投げ出されている。 否、その表現は誤りだろう。 投げ出されている足ならば、重力に逆らって上にあり続ける筈がない。 しかし、今私の下半身は、大した力も加えていない、加えられないにも関わらず、上におかれているのだ。 下からそれだけの自然的な力が掛けられているとしか思えない。 大きな力を受けつつ尚それに逆らって落ち続けるのか。 否、それだけの速度で落ちているからか。 自分の移動速度も、正直定かではない。 その影響で下から力がかかっているのだとしても、そのような感覚は全くないのだ。 叩かれるような痛みを肌に感じる事もなく、無理矢理姿勢を気をつけに変えられる事もない。 目だけを横に動かすと、肩までの長さを持つ自分の髪が、絡まりながら激しく揺られているのが見えた。 無数のそれは、同じ黒の癖に背景に溶け込む事もなく、生き物のように自分勝手に暴れている。 ……気持ち悪い。 嫌悪感を抱いてから、何故かそれを抱く事自体が異常だと感じられた。 知覚出来ない風が、私を続く闇のさらに奥へと誘う。 通常であれば考えもつかないような現象がこうも容易に起こり、それを私がまた容易に受け入れる事が出来るのは。 やはり、夢だからか。 この空間での全ての出来事に対する都合の良い言い訳は、しかし全ての正解であるとしか思えなかった。 落ちる夢。 ただ落ちていくだけの夢。 夢の中では、落ちる事が全て。 そこには、落ちていなかった時も、落ちなくなる時もない。 ならばこの夢に、始まりはなかったのではないだろうか。 終わりなどないのではないのだろうか。 夢だからこそ、有り得る話だ。 そう、たかが夢。 現実の私には影響はないし、夢の私がそれについて深く考える必要もない。 あれこれ悩んで不安になる、それではまるで現実だ。 そう考えた夢の私は、恐怖などしない。 自分の想像に怯える臆病な現実の私を、心の中で嘲笑った。 [*前へ][次へ#] |