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Soldier Of Fortune(紺碧の空)完(続くかも)
【Pandora's box】:「開けてはいけないもの」、「禍いをもたらすために触れてはいけないもの」を意味する慣用句。
 神殿を颯爽と後にした俺達であったが、どこへ行けばいいのかは見当もつかなかった。情報不足は運で補えが、SOFのモットーである。
「ところで先輩、さっきの人たちって何だったんすか」
「そうか、お前は知らないのか……最初の女は、超能力者集団“キサラギ”の手先だ」
「そんな集団があるんすか!? いかがわしいっすね」
「もう一人の男はアルフェミオ教会の魔導士だ。奴らは世界を終末に導こうとしているらしいが、詳しい事はわからん」
「それも怖いっすね……で、その人たちどこ行ったんすかね? もう先回りしてるとか」
「その可能性は大いにあり得る」
「で、どこ行くんすか?」
「……」
「先輩、聞いてみるって言うのはどうっすかね?」
「お前それ名案だよ」
神殿へと戻ると、俺は驚愕した。ヘーパイストスは、ただの石像になっていたのである。
「寝てるのか……?」
一向に動く気配がないので、仕方なく再び外へ出る。すると、今度はサイクロプスの姿が目に入った。
「すみませ〜ん!」
「をいっ」
いきなり声をかけるとは、襲いかかって来たらどうするんだ……フェアレスと居ると寿命が縮まる。
「ナンダ……?」
巨人はゆっくりとこちらを向いた。一つしか無い目玉でギロリと睨む。
「ソコニイルノカ……。チイサイヤツダナ」
「聞きたいことがあるんすけど、少しいいっすか!」
巨人の目が、不可解から好奇心へと移って行った。
「あの、パンドラの箱が何処にあるか、知ってますか?」
「パンドラノ……ハコ?」
一つ目はしばらく考えると、言った。
「エピメーテウスノツボノコトカ? ソレナラ、コノサキノイエノチカシツニアル」
「マジすか。ありがとうございます!」
「オマエタチ、ヘーパイストスサマニアッタノカ?」
「はい」
「アノカタハ、イダイナカタダ……パンドラモ、アノカタガツクッタ」
どういう意味だ? 箱を作ったということだろうか。
「ほんとに、助かりました! 先輩、行くっすよ」

 その頃、魔術師と超能力者は地下室に到着していた。入口は強固に封印されていたが、それぞれ彼らなりの方法で侵入したのだ。
「決着をつける時が来たようだな」
「キサラギが、何故箱を求める」
「お前は知っているんだろう……あの馬鹿どもと違って」
ヴェクセルは微笑した。
「予知の力を狙っているのだろう」
「やはり……生かしてはおけぬ」
06が身構えると、装甲服が変形して白かった部分が反転し、鮮血のような赤色になった。
「超能力者よ、あれは、人の望むべき物ではない」
ヴェクセルは杖の先に火球を生成した。
「何故だ? ゼウスの贈物の中で唯一人間に伝わらなかったもの……人間にはそれを得る権利がある」
一陣の風。気を目で追うことは出来ない。ヴェクセルは即座に結界を張り、力を分散させた。
「ゼウスはパンドラに宝物など授けてはいない。パンドラ自体が人間とエピメーテウスを陥れるための罠だったのだ。箱は……いや、壺という方が正しいだろう。それは元々エピメーテウスの家にあった。世界の害悪を詰め込んだ壺が。」
魔導士は火炎を凝縮してレーザーのように照射した。光線は06の寸前でねじ曲げられる。
「何を言っているんだ、もしそんな壺があったとしたら、何故その中に未来を知ることの出来る力が混ざっているのだ? その力が無いからこそ、人は無駄な努力を強いられるのに」
超能力者は天井に亀裂を入れると、魔術師に向けて崩落させた。周囲が土埃に包まれる。その隙に、06はバックパックに点火し、部屋の奥に高々と置かれている箱とも壺ともつかない入れ物へ飛んだ。
「取った……!」
彼女は着地するが早いか、箱を開けた。中には、美しい装飾の手鏡が入っていた。
「これが、予知の力……見える! 見えるわ!」
06は、見た。全てを。そして、全てを失った。彼女は鏡を取り落とすと、冷たい石床にくずおれる。それを、魔術師が抱きとめた。
「やはり、代償として過去を奪われたか。予知は災いであり、未来を知らないからこそ人間は希望を持つ事が出来るのだ……しかし、際どい事をしてくれる」
肩に付いた土を払い、手鏡を箱に戻す。その時、背後から銃口を突きつけられた。
「動くな。その箱を渡して貰おう」
「エトヴァス……何時からここに居た」
「いきなり床が崩れたんだ」
瓦礫の中からフェアレスが顔を出す。
「あれ? 先輩、それパンドラの箱っすか」
「わかった……くれてやるよ」
「意外と素直だな」
魔弾を撃たれたら、確実に命を失う。それを恐れたのだろうか、ヴェクセルは箱をエトヴァスへと渡した。そうして、放心状態の06を眺める。
「いいか、俺達がここを出るまでは動くな。もし動いたら、その命は無いと思え」
そうは言っても、扉は封印されていたのでかなり手間取った。最終的にフェアレスの手榴弾で片がついた。
「去るがいい」
「言われなくても!」
傭兵達は嵐のように去って行った。ヴェクセルがふとため息をつく。
「魔法学校で取り替え魔法を受講しておいて正解だった」
懐から鏡を取り出す。その時、上からヘーパイストスが顔を出した。
「客人、ずいぶんと荒い事をしたな」
「私ではなく、彼女だ」
06は目を見開いたまま動かない。
「そうか……彼女も、見てしまったのか」
巨神は残念そうに首を振った。
「儂の所為だ。儂がゼウスに頼まれて、パンドラを作った。そのパンドラが、世界に災いを解き放ったのだ……この町も、そうして滅びた」


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