[携帯モード] [URL送信]

短編小説対決
四月十五日
私と他者たちはゼロサム・ゲームの参加者だ。このゲームで私は他者に対する嫌悪感も条件反射的に植え付けられた。ゼロサム・ゲームにおいて、勝者の数は参加者の数に関わらず一定だからだ。
他者の数は勝率の分母。
参加者の増加数は、即ち敗者の増加数。
ゼロサム・ゲームはこの学校のみならず、社会のいたる所で開かれ、そこから逃れる事は出来ない。
過酷なこのゲームにも、必勝法はある。自分以外が参加していなければ良い。勝者は全員、敗者はいない。
しかしこの必勝法は実行が難しい。勝利報酬が高いゲーム程、倍率も上がる。参加者を消すにも、法や警察に見つかっては元も子も無い。逆に言えば、法や警察の睨みが効かない今の状況は好都合だった。ルールは無くなっても、勝利条件は残るのである。無論それを実行すれば死体が副産物として生まれる。皆副産物の発生を避けて、実行に移さなかった。
しかし昨日の出来事はその副産物の排除方法を提示したのだった。いや寧ろ、出来立ての死体なら蛆もいない。チェーンソーだって使える。作業が短時間で済む。
排除方法の発見は私と他者たちの膠着状態に大きな変化をもたらした。今までの抑制要因が完全に取っ払われたのだから当然である。
もう自身を含め皆が、参加者の消失を望んでいる事を知っている。デメリットが軽減された事を知っている。
皆が疑心暗鬼に囚われる。体勢を変えるための身動ぎに神経を尖らせ、トイレに行く者が防災準備ロッカーの近くを通ると身構える。
そして、この段階も直に終わる。他人の行動を待つのに疲れ、怯えるのを放棄し、自身の手で、目的を遂行しようとする。そのような者が必ず出てくる。
そして仮にそれが成功しようと、反撃に遭おうと、勝者は次の標的になる。
それを傍観者の一人が必ず襲う。
他の傍観者もそれに加わる。
関わってしまった者はもうゲームからは抜け出せない。
なし崩しになり、秩序は崩壊する。皆望んでの結果として。

チェーンソーが唸りをあげた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!