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短編小説対決
煌鷹(ああ何でこんな事になっているのだろうか…

 とある河には、それは輝くように美しい純白の橋が掛かっていた。
 多くの人々がここで別れ、出会い、或いは途中で引き返して行った。橋の丁度真ん中で自らの意志とは関係なくそれを何万年も見守り続けているものがあった。銀色の毛並みの獅子であった。
 橋と獅子は毎日、通り過ぎてゆく燃えるような陽に照らされては、夜になると凍るような月に照らされていた。昼の闇も星降る夜もあった。
 これはそんな時の流れの中ではほんの一瞬の出来事、まだ明けぬ早朝の薄暗さの中、獅子は橋を渡って来た二人の男を見た。片方は鳶色の髪で足取りは重く、片方は細く折れそうな杖を細い指に握っていた。二人は橋の真ん中、獅子の目の前で立ち止まった。一人は引き返すな、そう獅子は思った。
 獅子は聞いた。片方が、もう一人の手を取って、ただ一言、どうしても帰っては来ないのか、と言った。もう一人が、そうだ、どうしてもだ、と答えた。
 少しの沈黙の後、若い方が、小指から何かを外して、もう一人の小指にそれをはめた。そして、その相手の目をじっと見つめながら、これは後で自分を見つけるための手掛かりになるから、と言って、後ろ髪を引かれる思いを断ち切るかのように、しかし罪深い後姿で足早に、濃い霧のかかる長い橋を先へと歩いて行った。もう一人は為す術なく、昇ってくる朝日に頬と目尻を輝かせながらそれを見送っていた。
 それから暫くの時が流れた。
 ある日、細い杖をつき、小指に朝日を受けて光る何かをはめた老人が、誰の見送りもなく群集と共に獅子の目の前を通り、鳶色の髪の青年に出迎えられて、いつだったか獅子の見たように二人で、だがいつかとは違い笑顔で橋を渡って行った。
 その日以来、鳶色の髪の青年と細い杖をついたその父親の姿を見た者は一人もないという。


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