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短編小説対決
「空港と蠅と目玉」(紺碧の空)完
 その“目玉”は、空港の中の全てを監視していた。“目玉”の知らない事は無く、“目玉”はそれを誇りに思ってさえいた。
 ある晩、“目玉”が暗闇の中録画ランプを煌煌と光らせながら入国手続きのゲートを監視していると、妙なことが起きた。それはあまりに唐突であった。あまりに何が起こったのかはよくわからなかったが、何かを塗り付けられたようだった。しかしその後視界は何も変わらなかったので、“目玉”は無視して監視を続けた。ただ、もし彼に“嗅覚”があったのなら、事情は変わっていたのかもしれない。
 翌日の朝も、“目玉”はいつもの様に監視を続けた。眼下を人の列が流れて行く。何の事情があったのかは知らないが、部屋の隅で寝袋をしいて寝ていた男がゆっくりと身を起こしたのが見えた。その男はサングラスの下に不気味な笑みを浮かべ、こちらを覗いてきた。若干不快感を覚えた“目玉”は、彼を睨み返した。彼は鞄から何かのケースを取り出した。
“目玉”からはよく見えなかったが、何か良からぬ物が入っている事は予想出来た。だが、男がケースを開けても中身は無い様に見えた。“目玉”は訝しみながらも視線を逸らしたが、その直後視界が塞がれた。

 監視員が一服している所へ、空港警察が乗り込んできた。
「K国の犯罪組織が不法入国しようとしているという情報が入った! カメラの映像を確認してくれ」
「はい!……あれ!?」
監視カメラの映像は黒一色だった。そして、その黒が、蠢いている。
「何だこれは?……は、ハエだ!」
監視員がレンズに付いたエサを拭き取ったときには、犯罪組織は姿を消していた。記録されていた映像を見ても、犯人の鮮明な映像は映っていなかった。その後“目玉”が偉ぶって赤い録画ランプをちらつかせる事は、無くなったという。


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あきゅろす。
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