リレー小説第弐
7
ゼノビアはふう、と一度深い溜息をついて、静かな振動音を立てながら動き続けている埃を被った機械に目をやった。改めて見てもこれが重要なものであると知らなければきっと鉄くずにしか見えないような代物である……黙り込んだ二人の気も知らずにブーンという低い音が広くはないこの部屋に響き続けていた。
更に気を滅入らせるかのような音を通信機の呼び出し音が破った。
「No.0021、応答せよ」
「はい」
アルトゥールは通信機を握り締めてちらとゼノビアを見た。この声は彼らの司令官ギルバートの右腕とも呼ばれるアドマスタ・ヤナティのものである。アルにはこの男を好くことがどうしてもできないでいる、それには理由があった。
「二人とも無事か?」
「勿論です」
「『喪失者』として恥を晒すようなこととならなくて安心した」
これが単なる照れ隠しであるならよいのだが。
「では命令だ。戻って来い」
「は?我々は司令官に命じられてここに……」
「それはもういい。もう一度言う、命令だ、戻って来い」
何よそれ、とゼノビアが小声で言った。アルトゥールはこみ上げて来るものを抑えてだが苛立ちは隠すことなくアドマスタに答える。
「私ももう一度申し上げます。ギルバート・フィリップス司令官により下された命令を遂行するために我々はここに来ているのです」
「それが?」
二人の神経を逆撫でするような声が返ってくる。
「いいから戻って来るんだ。その命令は今、撤回された」
馬鹿な、とアルトゥールは呟いた。ギルバートがそんなことをする筈がない。「命令を撤回」したのはギルバートではなくお前だろ、と通信機のマイクに音を録られないように毒づいた。
「仕方ないわ。従う他ないようね、今後のことを考えると」
ゼノビアがアルに耳打ちする。諦めたように、だが反抗心のありありと浮かぶ声で「承知しました」とアルが答えると、もたもたするなよ、というアドマスタの言葉を最後に通信は切れた。
「何が『もたもたするな』、よ」
「全くだ。あ、それより……」
アルは怪訝な表情でゼノビアを見、床に目を落として言った。
「ギルバートからの通信は途切れたのに、今は正常に通信が行えるということは……Jウェーブの発信源が消滅したのだろうか?」
「ということはつまり、結局、私たちがさっき引き渡した三人と、廊下で死んでたっていう七人、侵入してきたのはその十人だけだったということ?」
「まさかね。更に言うと、奴らはどこから入ったんだ?」
「さあ。正面から堂々、ということは流石にないでしょうけど」
アルトゥールの問いの答えは、二人がその部屋を廊下へ、一歩外に出た瞬間に不快な方法で与えられた。
「う……臭っ……」
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