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NBAの愉快な日常(柚木)完
会話とチャイム
 向田と奈央が学校の廊下ですれ違ったのは、その数日後のことである。
「あっ」
「……あ、あんた、あの変人クラブの……」
 変人クラブ。否定出来かねないところが悲しい。奈央はそう思った。向田はどこか疲れたような様子だった。黒木の勧誘に参っているのだろう。
「あんた、お願いだからあの会長に何か言ってやってくれない?」
「私が言っても、多分何も効果はないと思うよ。会長は一回こうだ、って思ったことはやらないと気が済まない人間だから。」
 どこかで言われたような台詞を、そのまま返す。
「それから、私には『あんた』じゃなくて、坂上奈央っていう名前があります」
「……そう」
 大きな溜息をついた後、向田は奈央を見る。
「あんた……じゃない、坂上サン、だっけ?何であのクラブに入ってるわけ?疲れない?」
「まあ、疲れないって言ったら嘘になるけど」
そこで一瞬言葉を切り、奈央は考えるような素振りを見せた。
「うーん……でも、それ以上に楽しいよ。来てもらったら分かるんじゃないかなあとは思うんだけど」
「そう、その通り!疲れる云々はともかく、いいこと言ったね坂上さん!」
 いつの間にか、二人の近くに黒木がいた。驚きで身を強張らせる奈央と対照的に、向田は冷めたような疲れたような目で見ているだけだ。慣れてしまったのだろう。
「いつからいたんですか会長……」
「そういうわけだ、向田君。せめて仮入会、いや、見学だけでもいいからもう一度我らが会に来てくれることを楽しみにしているよ」
「そして私の質問は無視ですか」
 それじゃあ、と言って黒木は爽やかに去って行った。しつこく一人の人間に付きまとう男を爽やかと言えるのかどうかは謎だが。
「……なんかごめんね。ウチの会長が。でも、実際一回でも来てくれたら会長も満足するかもしれないし、とりあえず今度来てみたらどう?」
「……」
 奈央は、そのとき向田の答えを聞くことは出来なかった。休み時間の終了を告げるチャイムが無情にも鳴ったからだ。彼女がそのとき失ったものは、走ったために削られた体力。引き換えに得られたものは、向田の答えではなく先生のお叱りの言葉だった。


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あきゅろす。
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