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Slaughter Game(外村駒也)
ページ:7
「……残念だわ、一人だけだったなんて」
 顔を半ば引きつらせたまま赤い水溜りの中に横たわる本間を見下ろしながら、相田フミは呟いた。しかし、呟いた内容とは裏腹に、彼女の表情は愉悦に満ち溢れていた。
「ほんと残念ね。脳天を一発でぶち抜けたら面白かったのに、頸だなんて詰まらないわ」
 相田は、最期のお見舞いだとでもいうふうに、既に息絶え、ただの有機物と化した本間の脳天に、一発だけ弾丸を撃ち込んだ。パン、という弾丸の発射音と共に、いや、脳の破裂音だったのだろうか、脳味噌が廊下にぶちまけられた。
「きゃあっ、汚いわねえ。せっかく廊下が真っ赤で綺麗だったのに……撃たなきゃよかった」
 と、相田は笑みを浮かべながら言った。
 彼女、相田フミは、神井ユウタや進藤ケンヤらと同級生だった……2年前までは。不良のマキオたちに虐められたのが原因で不登校となり、未だに高校1年である。だが、その2年間に何があったかは判らないが、他人想いで優しかった筈の彼女の性格は、見事なまでに捻じ曲がり、惨忍なそれへと変貌していた。
「……ねえ、私の愛しのワルサー。次は誰を撃ってくれるの」
 相田は、その左手に握ったワルサーP99に向かって、声をかけた。
 ワルサーP99は、ドイツのカール・ワルサー社が製造する軍用拳銃である。9mmパラベラム弾を16発装填できる型で、ダブルアクション拳銃である。
「……ところで、さっきから後ろで何をやっているの。そこにいるのは判っているわよ」
「ちっ、バレたのならしょうがないな」
 相田の背後から、蕨が顔を出した。H&Kを相田の後頭部に突きつける。
「本当はもう少し様子を見たかったんだけど、悪いけどここで死んで貰うよ」
 パン。乾いた銃声。
「……お、お前」
 蕨の右肩から血が噴き出した。彼が引き金を引くよりも早く、相田がワルサーで発砲したのだ。丁度、蕨の死角にあたる相田の右脇下から撃ったようである。
「私が左利きでほんと助かったわ」
「……殺してやる」
 パラララ、とH&Kの連射音が鳴り響いた。
「っ、危ないわねえ。殺したかったけど残念。逃げるわ」
 相田は、蕨が姿を現した方の角を曲がり、すぐに走り去ってしまった。蕨は一瞬、追いかけようとしたが、右肩の痛みに耐えかねて、壁に寄り掛かるようにして床に座り込んだ。
「っくぅ、効くなあ、弾丸ってのは」
 蕨は肩に手をやり、大きく息を吐いた。シャツの右腕がじわじわと赤黒く染まっていく。
(静脈が切れたのか……動脈でないだけ助かったとするか。だけどあいつ、かなり危険だな。拳銃を構える気配すら感じなかった)
 蕨は、ウエストポーチから包帯を取り出し、慣れた手つきで肩に巻いていった。血がすぐに止まることはないだろうが、消毒する術もないため、一応の応急処置である。彼は頭の中で、相田について考えを巡らせていた。
(何故あそこまで銃に怯えずにいられたんだ。やはり慣れているのか。だとしたらあいつは……)
 そこまで考えて、蕨は自分の恐ろしい思考を全力で打ち消そうとした。だが、一旦辿りついた思考は容易に頭を離れはしなかった。
(……もしそうならこのゲームは、H&Kぐらいじゃ、全く余裕のない危険なゲームだ……どうする……)


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あきゅろす。
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