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死なない鳥(緋京)完
VI
「駄目じゃないかぁ、こんな時間に街に出るだなんて。君は僕の大事な不死鳥なんだからぁ。牢屋には入れられたくはないだろう?」
こんな屋敷もうごめんだ。私をただの道具としてしか見てないこいつらが苦しもうと関係ない。いずれ私は消えるのだ。それが早いか遅いかの違い。それに私は二百年近くずっとこの一族に尽くしてきた。もう充分だろう。あとは自分の自由に生きる。そのためにもなんとか…。
「どんなに頑張ってもその手足の縄はとれないよぉ。また勝手にされると困るからねぇ。」
アーロンはこの屋敷にきっと来るだろう。だが屋敷内までは入れないだろう。ここから出ねばならぬのに…。
「僕は寝るよ。じゃぁねぇ。」
その言葉も扉の閉まる音もイロナの耳には届いていなかった。

やっと縄が緩み始めたとき彼女の肩に手がおかれた。
「うわあっはがふが…」
「静かにしろよ。俺が入ってきたことがばれるだろ。逃げられなくなるぞ。」
「ぷは‥どうしてここまで来れたのだ?警備のものがいたであろう。」
「ここの警備は大丈夫なのか。やる気がまったく見られない。どこの鍵も開いてたぞ。ありがたかったけどな。」
イロナの縄を解きながらそう答えた。
「さっさとこんなところ出るぞ。ばれないようにな。」
出来るだけ物音を立てないように細心の注意を払いながら進んでいった。自然と会話も小声になる。
「こっちの方が早く屋敷を出られる。急ごう。誰かに気づかれる前に…。」
「どこへ行かれるのです。」
声の主は先ほどの黒服だった。それを確認する前に彼らは駆けだしていた。
「もう見つかったか。こっちだ。」
「侵入者がイロナ様を連れて逃走しようとしている。捕獲せよ!」
屋敷は一気に慌ただしくなり、いたるところから黒服がアーロンたち捕獲のために現れた。
「おいおい、侵入したときにはこんなにいなかったぞ。」
「今はそんなことを気にしてる場合じゃない。」
『いいか、よく聞けええええええええ』
マイクだろうか。誰かが大音量で放送している。
「現当主だ。ついにキレたか。まずい。あいつはキレると手段を選ばない。全速力で走れ!」
『捕獲なんてめんどくさい真似はしないでいい!殺せ!男も不死鳥もだ!不死鳥は生き返るのだから構わん。やれえええええ』
放送直後、背後から銃弾がほぼ一斉に襲いかかってきた。
「無茶苦茶すぎるだろ!お前まで殺せって。大事なんじゃないのか?」
「自分の思いどおりにいかないのが気に入らないんじゃないか。それより死にたくなかったら走ることだけに専念するんだな。」

「もうどこにも逃げられないねぇ。諦めなよぉ。」
前は当主と黒服たち、背中は壁。逃げ場は無い。黒服のそばにある扉。それが唯一の出口だが黒服のそばにあっては無理だ。
「君らの負けだ。降参しちゃいなぁ。」
「それは出来ませんね。捕まったら殺されるんですから…。どうです当主。取引しませんか?」
「取引?」
「俺が勝ったら俺たちを逃がす。俺が負けたら俺たちをあんたの自由にしていい。勝負は武闘でどうだ?」
「おい、勝手に決めるな。」
イロナの言葉など軽く無視され話が進んでいく。
「いいだろう。相手はこいつがするよ。」
それはイロナを連れ去った黒服だった。かなり良い体格をしている。
「お前は素手でいいのか?ならこれでやらせてもらう。」
アーロンは足下の木の枝を拾った。
「それでは開始!」
コールとともにアーロンは動き、次の瞬間黒服が倒れた。その場にいる全員が何が起きたか把握出来なかった。一人を除いて。
「勝負あったな。なら約束どおりにげさせてもらいます。行くぞイロナ。」
「あぁ…。」
「う、撃て!取引など関係ない。殺せぇぇ!」
しかしどの黒服も反応が遅れ構えたときにはもう彼らはいなかった。」



「ここまで来れば大丈夫だろう。休憩するか。」
屋敷からはかなり離れた草原に二人はいた。
「驚いたな。まさかお前があんなに強かったとは。」
「今まで剣で負けたことはない。」
「すごいな。それでこれからどうする。出たは良いが、資金も何もないぞ。」
するとアーロンはポケットから金貨の入った小さな麻袋をイロナに見せた。
「どうしたんだ、この金貨。稼いだのか?」
アーロンの口から出てきたのは意外な言葉だった。
「あの屋敷から頂いてきた。鍵が開いていたからな。」
「お前それって泥棒…。」
「気にすんなって。イロナがあの一族に尽くした年月を考えれば安いもんだって。」
「そういう問題か?」
「だったら俺一人でこの金使ってごちそう食べるぞ。」
「ずるいぞ。それは私のもの…。」
そんなたわいもない話をしながら彼らは笑いながら違う街へと向かい。歩いていった。


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あきゅろす。
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