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死なない鳥(緋京)完
V
夜が明けるのは早かった。牧師に礼をのべ、教会から出てきたアーロンはイロナと会うまでの時間をどう潰そうか考えていた。ふと昨夜のイロナの呆れた顔が浮かんだ。
(昨日は無計画さに呆れられたのだったか。働いて稼ぐ必要があるな。)
その考えにいたれば当初の目的を思い出すのに時間はかからなかった。
「思い出した。俺元々諸国をまわるため稼ぐつもりだったんだ…。すっかり忘れていた…。どちらにしても仕事を探さなければならないな。」
働き手を捜している手近の店で当面の資金を得ることに決めた。

「あれだけ働いたのにたったこれだけしか貰えないのかよ。今日の宿代ぐらいにしかならないじゃないか。」
貰った給金に不服だったのか何かぶつくさ言っていたが、アーロンが地道に稼いでいる間に日も暮れ、約束の時刻あたりになった。
「それにしてもあいつ本当にいるのか?」
また探すはめになるのかと、それが気がかりであった。そんな心配に反して昨日会ったあたりの場所にはイロナがいた。
「本当にいるとは思わなかったぞ。」
「なんだ疑っていたのか。答えると言ってしまったしな。女に二言は無い。何が聞きたいのだったか?」
「まず不死鳥についてだ。あの話は本当なのか。本当ならば関わったらどうなる。やはりろくな目にあわないのか?」
「順を追って話そう。長くなる。その辺に座れ。」
日も沈みかけ人気のほとんどない薄暗い路地で話し始めた。
「不死鳥についてだな。皆が話す私たちについての話は正しい。不死という点を除けばな。伝説のように死んで再び生き返ることはない。その自然の法則には逆らえない。他は正しいよ。確かに血を飲めば寿命は延びる。不老不死にはならないが。だがそのリスクとして血を無くしては生きていけなくなる。麻薬と一緒で効力が切れれば苦しみしかない。生き地獄だ。だからろくな目にもあわない。私たちと一緒にいることで狙われることもあるしな。」
女将さんが言うとおりあの貴族たちも狂ってしまっているらしい。不死鳥の血は当主にのみ許されたものだが、周りにも狂気は影響する。そんなやつらのもとでこの街が廃れなかったのが不思議だ。現当主も血で多少狂ってしまったが元々頭も弱いらしい。
「そのおかげで私はこうして外出できるのだがな。先々代のときにばれたときから長い間できなかった
が。一昨日の外出が七、八十年ぶりぐらいか。」
その言葉にアーロンは驚きを隠せなかった。
「お前今いくつなんだ?いくら長生きしてるといってもせいぜい五十歳ぐらいだと思ってたが…。」
「確か今年で二百だったか。もう記憶にないな。」
「もう立派なばーさんだな…。悪い、冗談だ。そんな怖い顔するな。」
「次はただではおかないぞ。」
「分かったよ。で、長生きなイロナさんには夢は無いのか?この前聞きそびれたしな。初対面じゃないし、何でも答えてくれるんだろ。」
イロナは少し詰まり、躊躇ったが覚悟したような顔を見せた。
「笑うなよ。いいな。…私の夢はお前と同じだ。色々見て回りたいのだ。お前を馬鹿にしたが人のことを言えぬな…。」
その告白に思わず吹き出し笑ってしまった。路地に笑い声がこだまする。
「な、笑うなと言ったはずだぞ!」
「ははっ、悪い。いいんじゃないか。そういう夢でも。あの屋敷から逃げないのか?いつでも逃げられるだろう。」
「簡単に言うが、私は久々に屋敷から出たのだぞ。世情にも疎いし、外の世界でやっていく力もない。ましてや不死鳥ともなればなおさら危険だ。ならばこのままの方が良いだろう。」
彼女の声には諦めの色がみえた。彼女はいつも不死鳥に生まれたことを理由に多くのことを諦めたのだろうか。彼女の言っていることは正論だが、あまりに理不尽だ。
「なら俺と一緒に来い。目的が同じなら構わないだろう。」
「し、しかし…」
「見つけたぞ!」
二人は驚き、声がした方向へ振り返った。そこには黒服の男が幾人かいた。そいつらを見たときイロナの顔がこわばった。
「イロナ様。勝手に出歩かれては困ります。屋敷に戻りますよ。」
その黒服は言い終わるや否やイロナを強引に抱きかかえるようにつれ去ろうとした。彼女はそのとき声を張り上げ叫んだ。
「私はお前と行く!だから…!」
そのあとはもう聞こえなかった。あまりの出来事にアーロンは呆然と立ちつくすしかなかった。だがイロナの言葉が頭に行き渡る頃には正気を取り戻した。そして屋敷からイロナを逃がす決意をした


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