[携帯モード] [URL送信]

死なない鳥(緋京)完
III
「変な女の子だったな…」
待ちに待った食事にアーロンはものすごい勢いで夕飯を平らげた。あとはデザートを残すのみとなったとき、先ほどの少女を思い出していた。
「それってどんな子だったんだい?」
アーロン以外の客はすでに自室へ引き上げていた。暇になったんだろうか、デザートをアーロンに出しながら宿屋の女将さんが話しかけてきた。
「俺をここまで連れてきてくれた子です。さすが貿易で栄えているだけありますね。いろんな国の人がいる。俺初めてあんな髪の色の子を見ましたよ。炎のような紅い髪の子。」
その話を聞いた女将さんは驚いたような少し恐れているかのような表情を見せた。女将さんだけでなく通りかかった客も似たような表情を見せた。
「俺おかしなこと言いましたか?」
「お前さん知らないのかい?」
女将さんは先ほどの子、紅い髪の子について教えてくれた。

あの女の子はこの街の領主一家、つまりここへの途中で見た貴族の屋敷に住んでいるらしい。彼女は不死鳥と呼ばれる血縁のものらしい。
’’不死鳥” 伝説上の生き物。その名の通り死なない鳥。その涙には癒しの力があるらしい。
その不死鳥のようにふつうの人間よりもはるかに長く生き、見た目はほとんど変わらない。つまり不老不死。そのような人間でないようでいて人間である人々を不死鳥とこの世界では呼ばれている。その血を飲めば寿命が延びるとも、不老になれるとも云われている。そのため彼らの血液は多くの人に求められ高額で取引される。しかし彼らも人。法で保護されているため裏ルートでだ。そして彼ら一族は皆同じ炎のような紅い髪をしている。それも不死鳥と呼ばれる所以のひとつだ。
女将さんは話し終えると一息ついてこう言い聞かせた。
「いいかい。あの子に近づくんじゃない。あんな伝説みたいな話を本気にして不死鳥に関わったやつらはろくな目にあってない。この街にもいたんだ、そういうやつらが。みんなおかしくなっちまってたよ。同じようにあの貴族たちも変さ。分かったかい?まぁ確かにあの子は見た目以上に長く生きてるみたいだけど」
言い終わると女将さんは仕事場へ向かっていった。話のあとアーロンも自室へともどっていった。

布団の中で再びあの不死鳥と呼ばれた少女のことを考えていた。
(あいつの家全然遠くないじゃないか。しかも不死鳥とかいうのなんだからなおさら危険じゃないか。)
考えれば考えるほど彼女への疑問がわき出てもう一度会って話したい気持ちになるばかりだった。
(女将さんはあんなこと言ってたけど本当のところどうなんだろう。落とし物もあるし会わざるをえない気がするな)
しばらく経つと静かな寝息しか聞こえてこなかった。一日中歩き通しだったのだから無理もないだろう。


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!