[携帯モード] [URL送信]

夜半の風(煌鷹)完
旅人の守護者
 レイズには何が何だか分からなくなっていた。エノクと言えば、『ラジエルの書』を参考にして天界の見聞録『エノクの書』を記した、生まれは人間の天使である。相手が高位の天使であることが事実なら、身の危険は一切無い。だが何故、自分のところに?それとも自分は何か罪を犯したのか?真っ暗闇で彼らを見ることは出来ない。気づけばファルエラの気配も感じられなくなっていた。彼は不安に押しつぶされそうになっていた。
「ファルエラ、答えてくれ、これは何だ?何が起きているんだ?」
「落ち着きなさい。我々は決して、お前の罪を裁きに来たわけではない。お前は罪人ではない」
厳格な声が彼を宥めるように言った。相変わらず友の姿を探し続けていたレイズだったが、天使たちの声だけは必死に聞こうとしていた。とにかく今の状況を知りたかった。
「まったく…貴方にしてみれば困った同僚ですね、ウリエル様」
 「やつらしいと言えばやつらしいが。人間への親切もたいがいにしてほしいものだ。何故わざわざ俺を呼んだのだか…後は頼んだぞ、メタトロン」
 厳格な声の天使・ウリエルはその場を立ち去ろうとしたが、ガブリエルに呼び止められていた。彼女はウリエルより力が上なのか、溜息を吐きながらもウリエルは渋々従った。
 「わっ…私の友人は、どこにいますか?」
 震える声でレイズは訊ねる。もう彼には相手が誰だろうと良かった。ともかくファルエラを見つけたかった。そして何が起こっているのか知りたかった。冷静な彼なら何とかしてくれる気がした。
 「レイズ、ここだよ」
 誰かに言われて、文句を言いながらウリエルが右手に灯した炎の明かりが広がる。罪人の処罰に使われる業火はレイズには眩し過ぎて、彼が目を開けていられないことに気づいたウリエルは炎を小さくした。
 恐る恐る目を開くとレイズの目の前には四人の天使がいた。〈智天使の長〉ガブリエル、〈懲罰者〉ウリエル、〈天の書記〉メタトロン、そして今までは無かった翼が生えている…ファルエラ。
 彼は優しい微笑を浮かべて言った。
 「今まで隠していてすまなかったな、レイズ。だが気を遣う必要は全く無い…一応言っておくと、実は俺が〈太陽の天使〉張本人だ。ファルエラというのは偽名で、名はラファエル」
 「ラファエル、様…?」
 「嫌だなあ、やめてくれよ『様』だなんて。俺と君との仲だ、俺のことは今まで通りファルエラでいい。今となっては安易な偽名だが」
 全くだ、とウリエルが呟いたのが聞こえた。確かにレイズはファルエラの本名を聞いて、気づくこともできたな、と思った……ファルエラ――ラファエル。順序を変えただけではないか。だから〈太陽の天使〉の名前を忘れた振りをしていたのか、と彼は思った。
 「ラファエル様は本当に人間と旅がお好きなようでね」
 苦笑しながらメタトロンが言った。
 「今までにもトビアの旅の手助けもしたことがある。彼の父親のトビトの視力を回復させたり、ヤコブの関節を戻してやったり、アブラハムの……」
 ガブリエルが渋い表情でメタトロンを見た。察したラファエルが彼を制する。
 「アブラハムの話は止しておこうではないか、エノク。我々の口から話すべき内容じゃない…レイズ、それに関しては聖書に記されているはずだ。それより前にも話したが、そのヤコブの関節を外したのはそこにいるウリエルだ。非情だと思わないか?」
 ウリエルはラファエルの言葉を無視した。レイズも答えられるはずがないので黙っている――ここにいる天使たちが人間臭いことに気づいて面白くなってしまい、笑いたくなるのを必死に堪えていたせいもあったのだが。
 少しの沈黙の後、気を利かせたガブリエルは話を元に戻そうとした。
 「残念ですがラファエル、ミカエル様はここにはいらっしゃいません。私にもあまり時間はありません…できるだけ早く、本題に入ってもらえますか?」
 「本題、とは?」
 レイズは不安そうな表情でラファエルを見上げた。
 「心配することはない。君の探している『ラジエルの書』のことだ」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!