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百物語(柚木)
ふたつめの、おはなし。
その人、大学に入ったのをキッカケに田舎から上京する予定で、住む部屋を探してたらしいの。
でも、探し始めるのが少し遅くって、大学の近くにいい空き部屋はもう無かったんだって。
何回も何回も不動産会社に行って、それでも見付からなくって、どうしよう、って途方に暮れてたところに、一部屋だけ空きが見付かったって連絡があったらしくて。
しかも家賃は格安。

急に見付かって家賃も安いなんて怪しいな、って思ってそこを見てみたら、案の定ひどい部屋でね。
トイレは一応部屋にあるけど、お風呂は無いし、台所も共同。
今にも崩れそうな木造アパートで、部屋の畳もまるで猫が引っ掻いたみたいにぼろぼろ。
イマドキ風呂無しだよ?あり得ないよねー。
でも文句を言える状況でもないし、仕方ないからその部屋に住む事にしたんだって。


でさ、引っ越したその日に同じアパートの住人に挨拶に行ったの。
台所とか共用な訳だし、仲良くしておいた方がいいもんね。

でも、挨拶に行く先行く先、みんな嫌そうな顔するの。
自分の話し方に田舎のなまりがあるから嫌がられたのかな、とか色々考えたんだけど、大学では全然そんな事無くって……。
おかしいよねえ。


しばらくアパートではやっぱり何となく避けられてて、すごく居心地悪かったんだって。
しかも、嫌がらせまでされるようになっちゃったの。
夜中に部屋のドアをたたく音がするのに、ドアを開けてみても誰もいないの。
それが毎晩、夜通し続くんだよ。眠れるわけないし、ひどい嫌がらせだよね。

それでも、その人にもやっとアパートの中に友達が出来たんだって。
今まで避けられてた分すっごく嬉しくて、すぐに信頼出来る程の仲良しになったらしいの。

それで、その人は友達に嫌がらせの事について相談してみたんだ。
そしたら、急に友達の顔色が変わって。
しばらく何も言わないで黙ってたんだけど、決心したみたいにその人の目を見て、こう言ったんだって。

「……今まで話さなくてごめん。やっぱり、話す。
あなたの住んでる部屋ね……、」


幽霊が出るって、言われてるの。


「…………え?」

「昔あの部屋で女の人が彼氏にふられたショックで自殺したらしくって。
私も最初に聞いた時はまさか、って思ったよ。でも、本当らしいの。
あなたの前に住んでた人は、毎晩ドアが叩かれる音に悩んでて、でも、住人は誰もそんな事してないの。
その人、それがあまりに不気味でアパートを出ちゃった……。
他の住人も不気味がってて、だから皆あなたを避けてたの。」

その言葉を聞いて、その人、今までにあった色々な事を思い出したんだって。
急に空いた部屋、格安の家賃、毎晩の嫌がらせ、自分の事を避ける住人……。

友達は続けてこう言ったの。
「私、その話を聞いて神社でお札とかお塩とかいっぱい買ってきたから、あなたにも分けてあげる。
本当に効くのかとか、そもそも幽霊がいるのかとか、色々分からないけど、でも、その、念のためっていうか……。」



その話を聞いた晩も、やっぱりいつものようにドアを叩く音がしたんだって。
怖くって、でもどうしても耐えられなくって、その人、扉に向かって叫んだの。

「やめてよ!幽霊だかなんだか知らないけど、やめて!やめて!!」

……そしたら、ドアを叩く音が急にやんだの。
ほっとして、眠りにつこうとしたんだけど……。



部屋の隅に、何かがいる事に気付いたの。



次の瞬間、それはその人の方に向かってきたんだって。
ずっ……、ずっ…、って、畳を引っ掻きながら。

それが、まるで血まみれの女の姿のようだと気付いた瞬間、
その人は叫んで、必死に友達にもらったお札を投げたんだって。

お札が効いたのかどうかも分からないまま、その人部屋から出て、持てる力全てを出し切って走って。

必死で走っているうちに周りが明るくなって、
それでやっと自分がアパートから遠く離れた場所まで走ってきた事、それから、もう何も自分を追ってきてはいなかった事に気付いたらしいよ。



「もちろんその人はその部屋を出て行ったらしいんだけど。」

その女の霊は、まだそこにいるのかな。


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