百物語(柚木) さいしょの、おはなし。 「じゃあ、私から始めるね。この前読んだ本に書いてあった話なんだけど……」 ある大学の登山サークルが、山小屋で夜を越す事になったんだって。 最初は日帰りで下山する予定だったんだけど、ほら、山の天気って変わりやすいでしょう? 山小屋は無人で、電気も壊れてて真っ暗で不気味だったから本当は泊まりたくなかったんだけど、急に吹雪いてきちゃったから、仕方なく泊まる事にしたんだって。 で、何て言うのかな? あの「寝たら死ぬぞ−」って状態、で分かる? そんな状態になっちゃったから、眠らないようにとにかく動こう!って話になったの。 そのサークルには4人会員がいたから、それぞれが部屋の隅に散って、1人の人が壁沿いに歩いていって行き当たった隅の所にいる人の肩を叩く事にしたんだって。 肩を叩かれた人は壁沿いに歩いていって、やっぱり行き当たった所にいた人の肩を叩いて、その繰り返し。 ぐるぐる回り続けるの。 そうやって動き続けてられたから、4人とも寝ないで無事下山できたんだって。 …でも、ね、よく考えたらそれっておかしいの。 だって、考えてみてよ? 4人目の人が隅っこについても、最初にそこにいた1人目の人はもう歩いていって2つ目の隅にいるんだから、 そこには誰もいないはずなんだよ? この仕組みは、誰かもう1人、5人目の人がいなかったら成立しないはずなんだけど…… 4人は、止まる事なく歩き続けていられたんだって。 そして、話し手の少女は笑顔で呟く。 「ねえ、なんでだろうね?」 * * * 「…え、ちょっと待って、それで何で5人必要なのかアタシ分かんないんだけど。もう1回説明して。」 「うわー、今のKY発言で怖い雰囲気一気に壊れたー。せっかく私が華麗なスタート決めたのにー。」 いや、話し方からして怖さ半減だったから。雰囲気も何も無かったから。 そう思ったが、これ以上発言をすると本当に場の空気が変わってしまうので、その言葉は言わずに胸におさめた。 もっとも、私が遠慮しても関係は無かったようで、場の空気は既に修学旅行の夜だ。 このまま放っといたら恋バナでも始めるんじゃないかこいつら。 明るい雑談は、止む気配がない。 と、 「あっ、そーいえばさー、今気付いたんだけど!」 騒いでいた少女達のうちの1人が急に言い出す。 「今さ、ここに居るメンバーも4人じゃん?だからさ、だからさ?」 ……話が全部終わったら、誰か1人、増えてるかもよ? しばしの、沈黙。 それを破ったのは、発言をした少女自身だった。 「なーんて!きゃー!きゃー!」 「やだ、変な事言わないでよー!!」 狭い空間に4人の少女達の叫び声が響く。 しかし、それは恐怖によるものではない。 …皆、心のどこかでそれを望んでるんだ、きっと。 何か、普段は経験出来ないような…。『特別』を。 もちろん、それは私もだ。 心霊現象でも何でもいい。”何か”起こってくれますように……。 そんな事を思っていると。 「そろそろ次いこうか?アタシ話すね。これね、アタシのお姉ちゃんの友達の友達が体験したらしいんだけどー……」 そして次の物話が、始まる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |