火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第五章:理由
先に沈黙を破ったのはファイヤードレイクだった。
「何を根拠にそのような戯れ言を?勝手な推測でこのファイヤードレイクの名を貶めてほしくはないものですね」
「戯れ言?」
「ではこちらからお聞きしてもいいでしょうか。もう一度伺いましょう。…何を根拠に?」
ファーブニルは勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべた。
「根拠?そんなものは必要ないが敢えて言おう…其方は知るまいが、我々は、其方が時々姿を消すことを不審に思って、長い間調査してきたのだ」
今まで無表情だったファイヤードレイクが徐に笑い始める。単純な笑いではなく、他人を明らかに嘲笑する冷めた笑い声だった。
「知らない?」
笑いを抑えてファイヤードレイクは言う。
「まさか。貴方の部下の、声が甲高いサラという少年がずっと私を追けて来たことなど承知の上です。が…彼は優秀な捜査員ですね」
「ほう、やっと己の正体を認めたようだな」
動揺を誘うかのようなファーブニルの言葉にも、ケイオスは何の躊躇いもなく相手を見返しながら答える。
「貴方は一度、此処にもいらしたようですね。露骨に捜査活動をするのは私の好みに合いませんが……ええ、確かに私は《ガゼル》のケイオスでもあります。ですが、それが何だと仰るのですか?」
飄々とした彼の態度にファーブニルは呆れるしかなかった。それと同時に彼は、遥か年下のファイヤードレイクに感服すらしていた。…自分がファイヤードレイクを尋問するつもりだったのに、いつの間にか立場が逆転し、寧ろ自分が尋問にかけられているような心境になってしまっている。
それに、ひた隠しにしていたことが露見したというのによく平常心を装っていられるものだ、とも思った。
ファーブニルが言葉を選んでいるうちに、沈黙が再び二人の相手に流れる。
「……結局のところ、貴方の聞きたいのは『何故司祭様に仕えるのか』ということなのでしょう?」
「貴様というやつは」
何故その若さで《ガゼル》に抜擢されたのか、という問いを、ファーブニルは自分の中で解決した。
「その通りだ。だがその前に、一つだけ聞いておきたい」
「何でしょう」
「…自分がケイオスであるということを、何故易々と認められる?魂の名である《ガゼル》での名と、其方の〔原型〕の名の両方を知られてしまえば、其方はその者による心の支配を受けることになる。其方がそれを知らない筈がないな。……司祭様以外に両方の名を知られてしまったなら、其方は俺を消すしかない。始めからそのつもりだったのか?」
譬え俺を今ここで殺したとしても状況は変わらないが、という脅しの込められた言葉だった。
だがケイオスは動じない。
「ふふっ…ははは…私がそんな失敗をするとでも?」
嘲りであり侮蔑の笑いだった。ファーブニルは明らかに不快そうな表情を浮かべている。動もすれば剣を抜き払いそうな殺気を放っている。
「面白い方ですね」
そんなファーブニルをよそにケイオスは冷静に言い放った。
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