火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第八章:ノスフェラト
フェンリルを訪ねてきた者は、外見が自分とよく似ていた。自分で自分を見ているように錯覚させるほど酷似している。中身も同じだったら…そう思うと彼は少し吐き気を感じた。
相手も同じような事を思ったらしい。一度目を背けられた。
「貴方がフェンリルですか。噂には聞いております」
「俺も其方の話は聞いている。《ガゼル》の一人ケイオスが……」
「いえ」
彼はフェンリルの言葉を遮るようにして言った。
「ノスフェラトと申します」
「え?」
目の前にいる自分とよく似た男は紛れもなくケイオスだ。ケイオスも自分の正体を見抜かれていることに気づいている筈である。ケイオスが何故あからさまな嘘をつくのか怪訝に思ったが、自分と視線を合わせてきた彼の目が微かに笑っているのに気づいてフェンリルは納得した。
「これは失礼致しました。私は勘違いをしてしまったようですね…お初にお目にかかります、ノスフェラト殿」
フェンリルは突然、彼に対する態度を変えた。自分の偽名の意図をフェンリルが察してくれたことに感謝してケイオスは微笑む。
ケイオスと名乗ってもファイヤードレイクと名乗っても、自分がフェンリルに面会に行ったと知れれば厄介なことになる。さらにフェンリルまでその厄介に巻き込んでしまうかも知れない。偽名を名乗っても、彼なら真意を察して話を合わせてくれるに違いない……そんな期待をケイオスはしていた。
「して、ご用件は?」
「少々昔話をお聞かせしようかと思いましてね」
「ほう…お聞かせ頂けますか?」
「勿論です。ですが、その前に」
ノスフェラトはフェンリルの表情を覗うように見た。覗うように、とは言っても、相手の真意を探ろうとしているようではなく、相手の反応を待っている堂々とした様子だった。
「フェンリル殿。貴方は司祭様に…いえ司祭様の統治に、満足していらっしゃいますか?私は貴方に昔話を話しに参っただけの者でございますから、どんなお答えがあったとしても決して他言いたしません」
フェンリルはケイオスの偽名のもう一つの真意を悟った。そして彼も少なからず……
「成程」
フェンリルは微笑みをケイオスに返す。いつの間にか、彼の中のケイオスに対する嫉妬のような嫌悪感は消え去っていた。
奴は自分と同じだ。
僅かな言葉を交わしただけで、お互いに相手のことを察していた。それぞれが相手の中に自分自身を見ていた。この世界には稀に「双魂」と呼ばれる双子の魂が生まれることがある。見た目も性格も同じ…自分達も恐らくその一例なのだ。
「ノスフェラト、其方にだから話そう」
同じ者同士なら、遠慮は無用である。彼は自分でも信じられない程、短時間の中にケイオスを信用していた。
「俺には其方にもまつわる、司祭への恨みがある。だがそれには関係なく、奴を信頼することはできない」
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