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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第七章:フェンリル
 部下の報告を聞きながら、フェンリルは苛立っていた。
 「誰がここに来たとしても無駄なことだ。交渉は決裂した。追い返せ」
 「しかし…」
 「同盟を一方的に破棄してきたのはあちらの方だ。今頃になって助けを求めて来るのは虫が良すぎるではないか」
 一時は同盟関係にあった〈ペガソス一派〉の使者が来たと聞き、初めは余りに呆れて怒りすら感じなかったが、何度も何度も交渉を求めてやってとくる彼らには流石に苛立ったのである。唯でさえ〈ファイヤードレイク一派〉について頭を悩ませているのに、〈ペガソス一派〉を相手にしている場合ではない。
 その〈ペガソス一派〉の指導者の息子が何らかの罪を犯して《断罪》の対象になったらしく、個人的に司祭に恨みを持っているフェンリルなら共に戦ってくれるだろうと期待しているようなのだ。無論、彼らと共に抗えば紛れも無い叛逆者とみなされ、自分たちも《断罪》の対象にされる。
 いくら強大化しているとはいえ、自分たちが勝てる見込みはない。
 「司祭に対する恨みがあるのは事実だが、それをわざわざ行動に表す必要はない。俺は無謀な賭けに出るつもりはないからな。そう伝えておけ」
 「承知いたしました」
 ……司祭に対する個人的な恨み。それは六年前のことだった。
 〈フェンリル一派〉の指導者として自分の名が世間に知れ始めた頃、全ての者の憧れの職である《ガゼル》の一員にならないか、と誘いがあった。十二人いる《ガゼル》のうち一人が病死したため、その穴を埋めるためにフェンリルを呼び込もうとしたのだ。彼は別に《ガゼル》に対する憧れを持っていた訳ではなかったが、司祭の命令を無視する訳にもいかず、一度はその誘いを受けた。
 が、その直後、彼の着任は取り消されることとなった。
 代わりに、自分と年齢の殆ど変わらないケイオスという者がその穴を埋めた。フェンリルは憤慨した。
 《ガゼル》になれないことが彼を怒らせたのではない。一度自分を呼び込んでおいたのにも拘らず、他の者を着任させたことに憤りを感じたのだ。
 自分の名誉を汚されたも同然である。それをきっかけに彼は司祭に絶対的な嫌悪感を持ち始めた。そうでなくとも司祭に良い印象を持てなかったのだから尚更のことだった。それと同時に、彼はケイオスに対しても嫌悪感を持った。ケイオスに非がないことは分かっているのだが、嫉妬に近い感情がフェンリルを支配している。
 最近、ケイオスの評判をよく耳にする。フェンリルは益々面白くない。
 (早く〈運命の子〉が現れないものか…既に今の統治は三千年を越えた。今までの歴史〈世界の掟〉から考えるとかなり異常なことだ)
 どんなに優れた統治も、三千年も経過すれば破綻が生まれるのは当然だ。三千年経つ毎に、今までは新たな統治者〈運命の子〉が現れてそれまでの統治者を討った。それらは全て人知を超えた存在たる〈神〉の意思によって行われると考えられている。
 しかし、未だ〈運命の子〉が存在すらしていないとすれば…
 (今のままの統治を〈神〉が認めているということなのか?)
 普通の者の寿命が五百歳程度なのに対し、統治者には三千年の寿命が与えられていると言われてきた。だが今回の事例では司祭の統治は三千年を越えているから、それは寿命ではないのではないか。
 (単に統治形態の破綻が三千年という単位で起こるからなのか?既に統治は乱れていると思うのだが…)
 恨み云々を忘れ去ったとしても、また誰の目からもそれは明らかだ。
彼が思案しているところへ、再び訪問者の来たことを告げに部下が入って来た。
 「またなのか?いちいち報告しないで追い返せ、と…」
 「いえ、今度は〈ペガソス〉のものではありませんが……もしかすると、この者も追い返せと仰るかもしれません」
 部下の言葉で、フェンリルはそれが誰かを瞬時に察した。


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