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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第七章:安定

 所変わって天蓋山。
 〈ファイヤードレイク〉の動きはこの場に集まる〈革新一派〉にも当然の如く伝わっていた。彼らが単独で大きな行動を起こすのは初めてのことである。後ろに〈フェニックス〉がついているわけでもない、否、彼らはまだ行動できるだけの様々な力の回復を終えていないはずである。完全に単独での動きだ。
 しかもそれが〈ペガソス〉の撃破を目的としているということ、それが〈革新一派〉の面々の思考を一層混乱させた。〈革新一派〉を少しずつ崩すつもりなのか?しかし〈ペガソス〉に宣戦することは即ち、〈革新一派〉全体に宣戦することである。いくらファイヤードレイク個人の能力が卓越したものであったとしても、また仮に〈革新一派〉が疲弊し混乱していたとしても、一度に彼ら全員を〈ファイヤードレイク〉単独で相手にすることは不可能であろう。不可能を通り越して無謀ではないか。
 「何か勝算があっての行動だろう?」
 グリフォンが疲れた様子のペガソスにそう声をかける。
 「ならその勝算は何なのか、それを考えればいい。それさえ失えばファイヤードレイクの目論見は水泡に帰す」
 「それが分かれば苦労はせぬ」
 馬鹿にするな、と言ってペガソスは深い溜息をついた。
 「奴の爪の向けられた対象さえ曖昧なのだ。奴の真意は何だ?俺を消したいだけではあるまい。間違いなく〈革新一派〉全体を灰にするつもりだろう……しかしどうやって?手っ取り早いのは〈運命の子〉を消すことだが、神に創られた存在である彼を消すことなどできまい。それは奴も承知のはず」
 「お主、顔が怖い。一度力を抜け」
 グリフォンはいつものように床に寝転んだまま、椅子の肘置きに右肘をつきながら考え事をするペガソスを見上げて言った。その時に開けっ放しの扉の前を通ったソーコルと目が合ったが、彼は何も見なかったかのようにすたすたと廊下を歩いていった。
 「余計な世話だ」
 「いや、結構怖い。お主もこちらへ来るんだ」
 「俺にも寝転べ、と?どうしてそうなる」
 「いいから来い」
 グリフォンは立ち上がってペガソスを強引に椅子から引き摺り下ろした。ペガソスは抵抗しようとしたが、グリフォンに関節を固められて身動きできない。グリフォンはペガソスを床に押し倒し、彼の上に馬乗りになった。
 「この馬鹿力が……」
 「まあまあ。お主の力が抜けるまで俺が床に押さえつけておくから、それが嫌ならその怖い顔をやめろ」
 「……何をやっている」
 ペガソスにとっては災難にもファーブニルが二人のいる部屋に入ってきた。彼は二人を見てしばらくそのまま立ち尽くしていたが、やがて無言で部屋の扉を閉めた。
 「全く……何をやっているのだ獅子鷲」
 「何、ということはないが」
 「とにかく馬鹿なことをしていないで降りろ。それと扉くらい閉めておけ」
 この楽天的な男には何を言っても無駄だ、と、グリフォンに乗られたままのペガソスが悪態をついた。ファーブニルは溜息をつくと、ついさっきまでペガソスが座っていた椅子に腰掛ける。
 「まあいい。俺は一つ聞きに来たのだ。ペガソス、其方、〈ファイヤードレイク〉が瑛鶴山と天蓋山どちらに矛先を向けているのか、分かるか?俺には分からなくてな」
 「……残念だが、俺にも分からない」
 「そうか。ではそもそも分からないものなのだな」
 ファーブニルは苦笑した。自分も過去の迂闊な行動でファイヤードレイクに弱みを握られている。彼の考えはいつも自分を上回っている、そう考えると笑わざるを得ない。
 「おそらく、火炎龍の目的の一つには我々を分断させることがある。戦力をここと瑛鶴山に分散させれば奴の思惑通りだ。ならばいっそ、空になっているに等しい瑛鶴山は棄てるが安全」
 ペガソスの上から降りる様子のないグリフォンが言った。彼がペガソスに同意を求めないのは、瑛鶴山を棄てることで一番の損害を被るであろう彼の言葉を待っているからである。
 「仕方あるまい。瑛鶴山を棄てることはここに来た時点で覚悟していたことだ。今まで誰の手にも掛からなかったことの方が不思議なくらいだろう」
 ペガソスは目を閉じて、少しの沈黙の後にはっきりとそう言った。三百年近く過ごしてきた瑛鶴山を離れた時には既に、彼は帰るべき場所をこの天蓋山と定めたのだ。
 「我々がこれ以上別れ別れになるわけにはいかない。我々は既にモノケロスを失ったようなものだ。彼の部下たちがここへ来たとはいえ、モノケロス自身がいない。そんな状況をこれ以上作るわけにはいかない。我々は後に、統治者という最も恐るべきそして警戒すべき相手と刃を交えることになるのだから」
 目を閉じたままで再び黙ってしまったペガソスにグリフォンは語りかけた。ペガソスがそれに頷いたのを見て彼は、よっこいしょ、と立ち上がってペガソスの体を解放する。
 「ペガソス、立ち上がらないのか?」
 ファーブニルの呼びかけにペガソスは応えなかった。もしや、と思ってグリフォンを見ると、彼の予想通りグリフォンは満足気に笑っている。術をかけて眠らせたのだ。
 「お主というやつは……」
 「ペガソスは全て独力で解決しようとしている。俺たちより年上なのにそういうところ、まだ若いな」
 グリフォンはくすくすと笑って部屋を出て行った。


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