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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第六章:不明瞭

 ファイヤードレイクの元に手紙が届けられた。匿名の手紙であり筆跡にも見覚えはなかったが、その文面から彼にはそれが誰からのものであるかをすぐに確信した。
 『火炎龍、貴殿の使いから大まかな話は聞いた。御察しの通り、今天蓋山にいる〈運命の子〉は本物ではない。私はその〈運命の子〉を名乗る少年の師の友人であり、彼にフレイムという名で指示を与えている者だ。貴殿の展望はアスナから聞いた。貴殿は濃い霧を我々のところまで唯一抜けてきた存在である。今まで我々は二人で、この苛立ちと憎しみを以て空を塞ぐ笠を裂かんとしてきたが、その烽火を揚げること、その後のこと、貴殿にお願いしたいと考えている』
 見ようによっては奇妙な文章だが、手紙の差出人はわざとこのような文面を作ったのだろう、とファイヤードレイクは思った。
 しかし、やはり少々の疑問が残る手紙である。
 空を塞ぐ笠、笠のその読みは龍に通じ、そのまま天蓋山のファーブニルのことを指す。そのファーブニルを裂く、つまり討とうとしている理由が「苛立ちと憎しみ」であるというのである。それは一体何であるのか?
 そして「その後のこと」とは何か。彼らの目的を果たした後、彼らはまた行動を起こすつもりなのか?その協力を願う、ということなのだろうか。それとも?
 ファイヤードレイクは立ち上がって部屋を出た。たまたまそこを通りかかった彼の部下に声をかける。
 「すまないが、全隊の隊長及び副隊長、各部長と副長、それから今回の〈ペガソス〉撃破に意見のある者全てに、出来るだけ早く東塔の二階に集まるように、と伝えてくれ。今日の定例会議の時間を早める。今の時分なら全員が本塔にいるはずだ。急いで頼むぞ」
 「は、はい」
 ファイヤードレイクに言われて彼は急いで最上階に向かった。
 東塔の二階は会議のために特別に設えた大部屋になっている。何年か前に研究部の現責任者であるスィデロが構成した術式によって、声がよく通るようになっているのだ。そのため話し合いはいつもここで行われる。
 また、こういうことがあっても良いように、とこの砦には伝達手段が用意されている。最上階の廊下の壁の中に仕込まれた透明な板に指で文字を書くと、各部屋の壁の目立つところに貼られている青緑色の薄い板にその文字が浮かび上がるという仕組みだ。透明な板、発信板のある場所を知っていれば誰もがそれを使えるが、この道具の発明者シヴァラは、一つ一つの発信が誰によるものなのか自動的に認識し表示するようにすることを忘れなかった。その仕組みを作ることの方が本来の機能を組み立てるより骨を折れさせたのは言うまでもない。
 ファイヤードレイクがゆっくりと会議場に向かうと、そこには既に何人かの将軍や責任者とキヌスがいた。聞けば彼らは別件でここで相談をしていたらしい。戦いの際、短期決戦と自軍の被害を少なくするために火器などの仕掛けを導入しようということで地図や設計図を前に真剣な表情をしていた。
 「どうも配置が難しいのです」
 キヌスが腕を掻きながら言った。
 「瑛鶴山も天蓋山も険しい。況してペガソスの築いた砦は堅固です。もし効率的に勝負を決めようとするなら、却って自軍の被害が増しかねません。しかしこれら……特に火器は非常に大きな戦力となります。最大限活用したいのです」
 「火器、か」
 ファイヤードレイクは過去に《ガゼル》のケイオスとして瑛鶴山に行ったときのことを思い出した。あの時は本砦の手前の中腹の砦で戦闘になったが、自分でなければ埋伏された大量の火器に焼かれていたことだろう……本砦の防御は侮れない。
 「……呪(シュ)を込めれば、味方への被害は止められるか」
 呪、とは、術とはまた別種のものである。術が使い手の力を利用すると同時に起こされるのに対し、呪は予め物に込められた力によって、何らかの変化を受けていわば「発動」されるものだ。
 「呪?術、ではなく?」
 「術では一つ一つの火器を誰かが管理しなければならない。不測の事態というものが起きやすくなるだろう。戦中でも繊細な術を扱える者がいるのならばそれでも良いが」
 「呪を込めておくことは考えにはありました……しかし、これが一番の問題です。呪を扱える者がおりませんよ?」
 スィデロが苦笑した。術と呪の大きな違いはもう一つある。術は研鑽次第である程度までは誰にでも使うことができるが、呪は通常、デオスと呼ばれる「神」と契約しない限りは使用できない。それは術が術者の力を使うのに対し、呪に込められる力が空間中のものであることに起因する。但しデオスとの契約には代償が必要とされるため、この二千年程、殆ど使われてはいない。
 「俺が事前に込めておけばいい」
 その場にいた全員の視線がファイヤードレイクに向けられた。
 「なんと……兄上は契約を?」
 「していない。が、何故か扱える」
 そんな馬鹿な、とスィデロは思わず口にした。
 「俺にも理由は分からないが、扱えるものは扱えばいい。ただ、どのような呪をかけておけばいいのかを事前に伝えてくれ。術とは違って呪は構成の必要がない。どういう使い方をするのかさえ分かれば俺がなんとかできる」
 皆が驚きながらも返事をした。疑問が解消されることはないが、今は頼れるものに頼っておきたいのである。追及は避けた。
 少しして呼び出しを受けた者が集まり始めたので、ファイヤードレイクはその話をそこで打ち切った。


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