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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第五章:「勘」

 「は?今、何と?レイヴンが死んだ?」
 フェニックスはファイヤードレイクの話に唖然とした。彼は今後のことをファイヤードレイク、或はケイオスと相談するために晃來山に来ているのだ。
 「……だそうですよ。ユノーが彼らを追撃し、討った、と聞いています。詳細は不明です。何でも、当のユノーと追撃隊の戦士が何も話さないのだそうですが……まあ、ユノーが戦士たちを口止めしているのでしょうね」
 ファイヤードレイクは自身もまた納得のいかない、という口調でフェニックスに言った。
 「何故だ?」
 「さあ。ユノーという将軍の噂はよく耳にするので想像はしているのですが。その特殊な事情は一向に分かりませんね」
 「其方にしては珍しい返答だな」
 「……私の目は千里眼ではありませんよ?」
 少しむっとしたようなファイヤードレイクの言い方にフェニックスは笑った。
 「で、ケイオス。偽の〈革新一派〉を止める算段はあるのか?」
 「おや。私、〈運命の子〉が偽だ、と今までに申しましたでしょうか?止める、と言った覚えもないのですが」
 フェニックスが少し考えて「ない」と答える。
 「だが、俺が〈モノケロス〉を潰すのに其方が協力したのは、それを見据えてのことだったのではないのか?あ、いや、それに関しても其方は何も言ってはいなかったが」
 「とすれば、勘、ですか」
 「勘、だな」
 恐ろしい方ですね、と言ってケイオスは笑った。そして座っていた寝台から離れて聖剣ユエイリアンを手に取り、少し抜いた。
 「貴方のご想像の通りですよ、フェニックス殿。貴方の勘には感服させられてばかりです……初めて私が貴方にお会いしたのも、貴方が『勘』で玉燐にいらっしゃった時でしたね」
 「そうだったな。そうか、あれからもう、一年程経ってしまったな。いや季節が一巡りして……あれは冬から春に移る頃のことだったか」
 「そうです。それで、本題に戻りますが……来月、私は〈ペガソス〉を滅ぼします」
 「滅ぼしにかかる、ではなく、滅ぼす、と断言するのか」
 苦笑するフェニックスにケイオスも笑った。
 「ええ。滅ぼすと断言しておきましょう。今のユノーは様子を伺うことには戦力にはならないでしょうし、高名な術士レイヴンが消えて士気も落ちているのは間違いありません。さらに、今度は私の『勘』が正しければ……〈ペガソス〉が消滅するのと、現在の〈革新一派〉が消滅するのは同時です」
 フェニックスはファイヤードレイクの中に策士ケイオスを見た。彼がこう断言できるのは「勘」のためではない。もう随分と前から、情報を集め、準備を進めてきた結果であろう……彼が〈モノケロス〉との戦闘を援助してもなお、〈ファイヤードレイク〉に余力があるのはその証拠に他ならない。フェニックスの「勘」がそう告げていた。
 「私がそうする前に、とある者がファーブニルの喉元にファーブニル自身の毒牙を突き刺してくれていたようです。あとはその毒が回ると同時に、彼の翼をもぎ取ってしまえばいい」
 「翼とは……ペガソスのことか」
 ケイオスはフェニックスに目を合わせないまま無表情で頷いた。
 「しかしその毒を吸い出す者が現れる可能性は否定できません。一番の懸念は雲潜山。もし彼が我々と意を違えているならば、〈ペガソス〉の掃討が困難になる」
 「雲潜山というとジュンインか。ジュンインは確か、グリフォンの息子だったな」
 「そう、彼が父親の元を離れた理由がはっきりしないのです。グリフォン本人は私の行動の妨げにはなりませんが、一切の行動を見せないジュンインの真意は分かりません……独立後、〈革新一派〉には加わらなかったところを見る限りは我々の敵には為り得ないように思えるのですが、何分、雲潜山に関する情報が少なすぎます。暫くは父親の目を逃れるためにそうしていたのでしょうが……いつまで動かないつもりなのか」
 うむ、とフェニックスは唸って天井に目をやり、二人は暫し黙り込んだ。彼は初めジュンインについて考えていたが、ふと思ってケイオスを見る。
 「何故だ?何故、グリフォンは妨げにならない?そしてペガソスの息子のグレイジルを敵対しうる者と考えないのは何故だ?ファーブニルの喉元に毒牙を刺したのは誰だ?その毒牙とは何を指す?何故、〈運命の子〉を擁する〈ファーブニル〉ではなく、〈ペガソス〉を消すことが〈革新一派〉の消滅に繋がる?そして何故、今のユノーが戦力にならないと考える?」
 ケイオスは一瞬驚いたような表情をしたが、直ぐにファイヤードレイクのいつもの微笑がフェニックスに向けられた。
 「質問攻めですか?」
 「あ、いや」
 「別に責めているわけではありませんよ。当然の質問です」
 ファイヤードレイクは手にしていたユエイリアンを机上に置いてきて寝台に腰掛けるフェニックスの隣に座った。
 「が、今はまだそれをお話しする時にはありません。貴方を信頼していないというわけではなく、時期尚早、なのです」
 「分かった。深くは追及すまい。今は俺も万全な状態ではないからな、〈ペガソス〉に関しては全て其方に任せる。いいか?」
 ファイヤードレイクは自分に微笑みを返してくれたフェニックスに対する少々の罪悪感の消えないままに、勿論です、と力強く答えてフェニックスの傷と火傷だらけの手を取った。


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