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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第一章:盟友の誕生
 
 レイヴンは命令書を両手で覆い隠すように握り潰し、一瞬でそれを灰にした。陽も上ったばかりのことである。一度は沙琳城の役所に届けられたそれを、ついさっき役人がレイヴンに手渡してくれたばかりだ。内容など読むまでもない。
 それは自分に宛てられたものではあったがフォティアの帰還命令もそこに記されていただろう。レイヴンはそれを承知で、まだ眠っている彼には見せもせずに術で焼き尽くしてしまった。手の中の灰を見つめていたレイヴンに背後から声を掛ける者があった。
 「大した度胸だな、フォンテナジェイロ」
 「見ていたか」
 「私に見られて困るようなことでもないだろう」
 まあな、と言ってレイヴンはその辺りに置いてあった杯にその横にあった瓶の中身を注ぎ、目の前の男に渡す。
 「今日はそれ程酷くはないのだな」
 「ああ。やはりお主の薬は効く」
 「昨日は苦いと言って飲むのに苦戦していたのが、よく言うな」
 彼は受け取った杯の中身を一気に飲み干した。
 「相変わらず味は酷いままだ」
 「文句を言うなイージェセダム」
 レイヴンは苦笑しながらも空になった杯を受け取って、甕の水でそれを濯いだ。瓶の蓋を閉めているとふと隣の部屋の物音が耳に入った。
 「起きたようだな、フォティアとやらが」
 「あまり他人行儀にするなよ、居心地が悪いだろう、お互いに」
 程なくまだ眠い目を擦りながらフォティアが現れた。
 「朝から大声でご苦労なことだな」
 「起こしてしまったか。我々は早朝から行動する習慣なのでな。まだ寝ていても構わんぞ?」
 「いや、いい」
 フォティアは適当なところに座り込んだ。この数日慣れない場所で寝ていたために眠りがどうも浅かったのだが、ここに来てどういう訳か非常によく眠れたのだ。
 無論レイヴンがそれを承知でフォティアの飲み水に眠り薬を混ぜた、というのは秘密である。
 「昨晩は暗くて分からなかったが、こうして見てみるとなかなか良い顔立ちをしているのだな、フォティア」
 「……は?」
 まだ靄の掛かったような意識で、昨日が初対面の相手に突然に訳の分からないことを言われてフォティアは混乱した。
 「気にするな、グレイジルはこういうことを平然という馬鹿だ」
 「そうなのか……」
 「まだ駄目だな、これでは」
 レイヴンが座っているフォティアに近づいて行って手を伸ばすと、フォティアは何かに驚いたように突然体を仰け反らせた。
 「な、何のつもりだ」
 「意識がはっきりするまで眠ってもらおうかと思ったのだが」
 「其方の術に掛かると一日中調子が悪くなる」
 「当然だ。仮にも俺の力を無理矢理流し込むのだから」
 フォティアは溜息をついて立ち上がった。
 「とにかく其方にどうこうされるのはお断りだ」
 意外だな、といったようにグレイジルは口を開く。
 「そうか。私は割と好きなのだが……」
 「相性というものがあるからな。其方の力は俺のものと反発しようとしないが、フォティアと俺の相性は最悪だ」
 「何を言うか。其方が昔、散々に私に術をかけたからだ。抵抗するようになって当然だろう」
 相性は変わるものではないぞ、とレイヴンは笑った。確かに彼は過去、新しく覚えた術があると、危険でないものに関しては無断でフォティアで試していたものだった。自分自身にかけてしまっては効果がよく分からないからである。
 「フォン……いや、レイヴン」
 「別にフォティアになら聞かれても構わない。フォンテナジェイロの方で良い。どうせいつか呼び間違えるだろうし、な」
 「フォンテナジェイロ、は其方の」
 魂の名だ、とレイヴンは答えた。相手の魂の名を知ることは相手を支配することと同義である。だから余程親密な間柄でない限りは互いの名を明かしはしない。
 「其方の名と似ているが、特に気にすることもあるまい」
 確かに似ているな、とグレイジルは笑った。
 「では私もイージェセダムと呼んでくれ。私のことを馬鹿と言いつつもその馬鹿と何十年もいる、もう一人の馬鹿といる時間が長かったからな。この名で呼ばれるのに慣れてしまった」
 「フォンテナジェイロと、イージェセダム、か」
 「俺が無理矢理に覚えさせてやっても良いのだが?」
 悪い冗談はよせ、とフォティアは渋い顔をした。
 「こうなっては私も名を明かさねばなるまい。私はセイゲンラック。セイゲンラックだったと思う……確か」
 「確か?」
 グレイジルが呆れたように聞き返す。
 「いや、セイデンラックだったか?」
 「セイゲンラック、だ」
 何故かレイヴンがそう断言した。
 「今まで隠していたが、前に術にかけたときに聞き出した。良かったな、俺の術にかかって洗いざらい吐いておいて」
 「結果論だ!其方、私に何を言わせた?」
 大したことではない、気にするなと笑いながら言うレイヴンに顔を真っ赤にしたフォティアが掴みかかった。



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あきゅろす。
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