火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第十三章:気紛れ
「何?モノケロスを見失った?」
ずぶ濡れのユノーは息を切らしたまま主の前に跪いた。
「あれだけの人数がいてたった一人助けることができなかったとはどういうことだ。況してや……」
「申し開きの言葉も……ございません」
「ユノーともあろう者が、らしくない失敗だな」
グリフォンが遠慮もなくペガソスの部屋に無断で入ってきてそう言った。ペガソスはグリフォンを一瞥はしたもののまるで見なかったかのようにユノーに視線を戻す。
「捜索隊は出したのか?」
「はい……」
ペガソスはやれやれとばかりに溜息をついた。
「敵と正面からぶつかりながらもあれだけの被害に留めたことは賞賛に値する。しかしモノケロスのことは俺一人で判断するわけにはいかない。とりあえずは皆に迷惑だ、体を拭いてこい」
「如何様な処分も……お受け致します」
ペガソスは答えなかった。それを出て行って良いという意と解釈しユノーは立ち上がって一礼し、グリフォンの横を通り過ぎて退室しようとしたが袖を引かれて立ち止まる。
「君の隊の者から話は聞いた。気にするな」
グリフォンのその言葉にもユノーは無言で、ただ一礼してそのまま立ち去った。それを見送ったグリフォンは部屋の戸を閉めて呆然と床を見つめているペガソスに歩み寄る。
「ペガソス」
「……何を言いに来た。皮肉か?」
「なら言う。酷い表情だぞ、お主」
余計な世話だ、とペガソスは吐き捨てるように言った。自分の居室に無断で乗り込んでくるグリフォンの無神経さが分からない。
「帰っては来ないな、二人とも」
グリフォンはペガソスの正面、さっきまでユノーがいたところにそこが濡れているのにも構わず座り込んだ。無理矢理にでもペガソスと話をする気なのだ。
「沙琳からなら彼らがいくらゆっくり来たとしても着いておかしくない頃だ」
ペガソスの視線がやっとグリフォンに向けられた。
「二人とは、レイヴンとフォティアのことか」
「ああ、モノケロスともう一人誰かのことだと思ったのか。何とも薄情な主だな」
「この話の流れなら誤解して当然だろう」
さては忘れかけていたな、とグリフォンが笑う。
「何がおかしい」
ペガソスはまた深い溜息をついて言った。
「レイヴンのことは諦めていた。しかしフォティアまでが」
「レイヴンが連れ去ったも同然だぞ。どう責任取ってくれる」
「……すまない」
「ふう、やはりお主おかしいぞ」
グリフォンの表情が珍しく厳しいものになっていた。それに気づかないままペガソスは答える。
「勝手に笑っていろ」
「なあ、俺も今に限っては真剣に言っているんだ。年上に説教などしたくはない」
説教するつもりだったのか、とペガソスは毒づいた。
「まあ聞いてくれ。お主だけの問題でもない。主がこのような様子では全体の士気も下がる。そうでなくとも今日は雨が降っているのだから、憂鬱にさせるような顔をされては迷惑だ、というのが一つ」
「……二つ目は何だ」
「お主が機嫌の悪いときの顔はかなり怖い」
「知るか」
「三つ、カリアスが心配している。いくら〈運命の子〉であるとはいえ子供に心配されるのは如何なものかと思うが」
「二つ目と三つ目の順序は逆であるべきだと思うが」
グリフォンは満足げにふっ、と笑うと足を組み直した。
「で、本題に入らせてもらうと」
ペガソスが呆れたように苦笑いした。
「今までのは本題ではなかったのか」
「俺はそこまでお節介ではないからな。では、本題その一、モノケロスを連れ去った男がいたらしい。そしてその男は冲稜に消えた。本題その二、フォティアとレイヴンを命令違反の廉で処罰すべきである。本題その三、ユノーが連れ帰ったほぼ無傷の隊を含め、彼らに配置と計画を正式に伝えねばなるまい。それに関して、冲稜が陥ちたと考えて良い日から三日経っているが、話によると脱出したモノケロスの部下たちがこちらに向かってきているという。行動を計画より遅らせることも考えに含め、話し合う必要に迫られている」
「そうか。モノケロスは部下を逃がすために必要以上の抵抗をしていたのだな」
グリフォンは頷いた。
「だからモノケロスは『援軍は無駄』と言い、曖昧な言葉でこちらが状況把握できないようにしたのである、と考えれば納得は行く。中途半端な時期に援軍に来られては自分だけが脱出するために多大な犠牲と損害が出ただろうからな」
「ペガソス殿、ご名答」
何か言いたげなペガソスを気にせずグリフォンは立ち上がる。
「その部下思いの当人も誰かに助けられて生きている可能性が高い。奴が来るまで出来ることをしようではないか」
だからユノーのことも気にするな、と言って、グリフォンは入って来たときのように勝手に戸をあけて部屋を出て行った。
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