[携帯モード] [URL送信]

火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第七章:血を継ぐもの

 まだ若い者が西方の僻地、雲潜山で密かに活動を始めていた。名をジュンインという。表立った行動をとることはなかったが、それはまだ集団の規模が小さいから、ということだけが理由ではなかった。確かに他の一派との競争力はまだない。しかし彼が鳴りを潜めている目的はもう一つある。父の目から逃れているのだ。
 「父上はまだ私を探しているのですか?」
 指導者ジュンインは呆れたように部下のハステイルに問うた。
 「そのようですよ。突然失踪した息子を探さない親はいません」
 「私もとうに百を越えているのですがね……まだ乳飲み子と同じ扱いとは、困ったものです」
 そう言いつつもジュンインは微笑んでいた。父の気持ちが全く理解できないという訳ではないのだ。黙って砦を出た自分に非があることも分かっている。それでも彼は砦を出ずにはいられなかった。父の名は何もしなくとも伝わってくる。父の心配は不要だ。
 「まあ、いつまでもこうしている訳にも行きませんからね。例えば……北の晃來山に助力を要請してみたら、彼は我々を援けてくれるでしょうか?どう思いますか、ハスティ」
 「ファイヤードレイク殿に、ということでございますか?」
 「はい。彼なら信頼できます」
 「信頼?それはまたどういった理由で?」
 ジュンインは少し返答に詰まった様子で首を傾げた。
 「何故でしょうね?彼とは父のところで一度会ったことがあります。なんとなくですが、彼は信用の置ける人物だ、と思ったのですよ。彼の評判は必ずしも良いものではありませんが」
 そうですね、とハステイルは苦笑いした。
 「よく耳にする噂は、食えない奴だの、不気味だの、異質な者であるだの、という類のものばかりです。しかし能力や器量に関する情報は一切ありません。つまり」
 「嫉妬や腹いせによって広められたものだと?」
 「その可能性が十分あります」
 ジュンインははっきりとそう言い切った。情報が一切ないのにも関わらず何故そんな断言ができるのかは分からないが、彼の勘は妙に良く当たるのである。それともそれらは勘ではないのかもしれない……本人が何も語らない以上、その真偽は定かでないが。
 「そういえばハスティ、先日〈運命の子〉について話を聞きたがっていましたね。もう解決しましたか?」
 「いえ。あの、今伺っても宜しいでしょうか?」
 「勿論です。では、私に質問してください。それに答えていきましょう。その方が早そうですからね」
 では、と言ってハステイルは少し口を閉ざした。知りたいことをどう訊くか考えていたのだろう。
 「そうですね、では、これは以前から気になっていたことなのですが、〈統治者〉は何故〈運命の子〉を早い段階で殺さないのですか?例えば、〈運命の子〉が力をつける前に、或は生まれるより前にその魂を消滅させてしまえば、統治を永遠に続けることができるのでは?〈統治者〉の能力でならそれが可能な筈です」
 「それは簡単です。〈運命の子〉をたとえ殺害したとしても、神によってその魂は何度でも再生されることが分かっていますから〈統治者〉は〈運命の子〉に手出しをしないのです。〈革新の時〉の戦いで堂々と自分の優位を証明できれば、それで統治を続けることができますからね」
 ジュンインは淀みなく言葉を繋いだ。
 「他には?」
 「〈運命の子〉につくという〈導者〉のことです。まず、卓越した力と知力を持つという〈運命の子〉に、果たして〈導者〉は必要なのでしょうか?」
 「難しい質問ですね。そうですね……〈導者〉は、ただ〈運命の子〉を補佐するというだけではないようです。〈運命の子〉に何らかの大きな影響を与えているのではないか、という見方がされています。私は〈運命の子〉ではないので詳細は分かりませんが。それと、先程の質問に関連して、〈導者〉は死んでも直ぐには再生されないようです。神によって相応しい時期に再度送り込まれるという説が最も説得力を持っているでしょう」
 「成程。では、現在〈運命の子〉が現れる気配を見せないのはどういった理由でしょうか?」
 「さあ、〈統治者〉が〈運命の子〉を消し続けているのでしょうか?しかしそのようなことを神が許すとは思えませんから、何らかの方法で現れるのを防いでいるとしか……それに伴って天数も狂いを見せているのでしょうね」
 そう言ってジュンインは少しの間それについて考えていた。神の目を掻い潜って、或は手出しのできない状況を〈統治者〉が保ち続けているということだろうか?
 「あ、すみません。他に質問は?」
 「ええと……あ、そうです、先程から仰っている神とは?」
 「我々には到底近づくことのできない存在です。というよりその存在自体を知ることはできません。ただ、残されている伝説では、神は六千七百八十三もの世界を管理しているといいます」
 「はあ……」
 「つまり何も分かっていないということです」
 ジュンインは優しい笑みを見せた。全ての者を惹きこんでしまうような温かい微笑みを向けられてハステイルは少し頬を赤らめる……この笑顔の魅力から逃れることなど誰にもできはしない。
「詳しいことは〈運命の子〉たち当事者にお任せしましょう。実際どうすることもできないのですから。情報はもっと開示されるべきだとも思いますが、それなりの理由があってのことであると或は考えるべきなのかもしれないですね」
 「そう……ですね」
 「まあ。そんなところでしょうね」
 それからジュンインは暫くの間窓から外を眺めていた。


[*前へ][次へ#]

7/15ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!