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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第七章:決心

 (フェニックス……予定外の動きを見せたな。流石は女帝キマイラの後継者だ)
 ケイオスは入り込んでいる先の意識と会話を続けながら、自分も休ませてもらえるか、と言って別室で眠っている指導者のことを考えた。
 フェニックスは度々、奇抜な発案をしては他の一派を驚かせる。そして彼の実行力こそが脅威であることはケイオスとフェンリルも承知の上だった。だがまたしても、フェニックスは一見突飛にも見える行動を起こしたのだ。
 自分を捜し、恐らくは保護することで利用しようとしたのだろう。生きているのにも関わらず《ガゼル》が帰らないのは何らかの意思の表れである。或は、もし他の一派がケイオスを捕らえているなら早急に対策を立てねばなるまい…ケイオスはフェニックスのそんな考えを彼の言葉の端に見た。
 フェンリルもそれに気づいている筈だ。
 彼が自分の居場所を教える交渉をした理由をケイオスは悟った。そしてそろそろフェンリルが自分にその話をしに来るであろうことも……
 「火炎龍」
 彼が気づかないうちにフェンリルは寝台の傍に来ていて、微笑みの無い表情で自分を見ている。
 「来たか…話は分かっているよ」
 ケイオスは深く息を吸った。先程のフェンリルの援護によって、声を出すのが随分楽になっていることにケイオスは感謝した。
 「なら話は早いな。それで、其方の結論は?」
 恐らくは生涯最大の選択になるであろう決断にケイオスにも戸惑いが残っていた。それでも最良の決断なのだと自身を納得させ、彼は半身を起こす。
 「司祭様の下から離れる。《ガゼル》を離脱しよう。先の其方のフェニックスへの言葉はそれを俺に求めてのもの。ケイオスの名を棄てて、一人の指導者となる……いずれは選ばねばならぬ道」
 「そうか」
 「だが暫くはそれを公言しない。今のままの状況を保っておけば、ここに居ながらにして俺は司祭様に重圧をかけ続けて行動を制限することができる。今〈統治者〉が何故か動きを見せないのは、恐らく何らかの理由で俺の失踪を警戒しているから…その真偽も理由も分かりはしないが、一つ断言できることはある」
 フェンリルが黙って寝台の空いた場所に腰掛けた。
 「もう何年も前から気になってはいた。司祭様が一度其方を《ガゼル》に抜擢しながらも、何故その後すぐに俺を役に就かせたのか。そして俺への対応が冷たいのか…実力が関係しているとは到底思えない。その理由さえ分かれば、僅かにでも司祭様の狙いが見えてくる筈」
 「詭弁だな」
 「別に他意があるわけではない」
 「分かっている。そのことは関係ない」
 フェンリルはフェニックスがここに来る前にそうしたように、ファイヤードレイクの腕を掴んだ。今度は抵抗はない。
 「今思えば、《ガゼル》となった其方のほうが心労も負担も大きかった筈だ。其方が役に就いたことはもう何とも思っていない。だから気にするな」
 フェンリルはファイヤードレイクと目を合わせないままに言った。目を合わせないのは後ろめたいことがあるからではない事をお互いに理解している。ファイヤードレイクの返事は無かったが、フェンリルはそれを了解の意と受け取って先を続けた。
 「我々がいくら想像しようと真意を探ろうと足掻いても、あくまでも推測は推測。司祭が何を考えているのか窺い知ることは叶わない…それに司祭に抵抗を見せなければならないのは〈運命の子〉が現れるまでのこと。それ以降は我々の出る幕ではない」
 言われるまでもない、と答えてファイヤードレイクは目を閉じた。また交信をしているのだろうか。
 暫くして、少し掠れた声でファイヤードレイクはある一人の名を話題に出した。
 「……奴は予定以上に巧くやってくれているようだ。これなら当初の計画を狂わせることにも躊躇はない。少々賭けになりそうではあるがな」
 賭けもまた一興だ、と笑うと、フェンリルは立ち上がり再び部屋を出て行った。


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あきゅろす。
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