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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第九章:本音
 二人は沈黙した。だが不思議なことにこの沈黙には気まずさも重さもない。暫くの後にケイオスは口を開く。
 「俺を信じてそう言ってくれたことに礼を言う」
 ケイオスの表情から笑みが消えて真剣な表情になった。
 「今、どの城内でも司祭に対する恨みと疑いの声が高まっている。〈運命の子〉も何故か姿を現さない…選ばれし〈運命の子〉でなければ、統治者と戦って勝つことはできない。司祭の強大な力の前では、俺や其方の力ですら無力に等しい」
 ファイヤードレイクは一度フェンリルから視線を逸らし、遠くを見つめているかのように目を細めた。何かに苛立ったような口調で彼は続ける。
 「ニアジェンシードの暴政は誰の目から見ても明らかだ。況して、法があれば統治ができるというものではない…そして彼直属の軍隊にはその事実は知られていない。ただ命に従い、戦闘で叛乱の鎮圧を繰り返すのみ。フェンリル、一つ提案がある。勇将・ドルネスとライデンに倣おうではないか。統治者ニアジェンシードの下にうずくまっている必要はない」
 「確かに昔話ではある。あくまでも伝説の時代だ」
 お互いの知識が多いからこそできる会話である。創世からまだ間もない頃、統治者となったばかりの頃は名君と呼ばれたニアジェンシードがその末期には暴政を布いていた。元々は彼の直属の配下だったドルネスとライデンは主を見限って離脱し、次の統治者となり得る者を探し出して新たな主とした。そして彼らは次の統治者に全力を捧げ、ニアジェンシードの軍は彼らによって破られることとなった。
 ノスフェラトはその古事を引用したのである。ニアジェンシードは今の司祭、軍隊は《ガゼル》、ドルネスとライデンを自分達に譬えている。「彼らに倣う」とは結託して叛乱を起こそうと誘っていることに他ならない。
 「しかし考えてもみよ、ノスフェラト」
 今度はフェンリルがケイオスの反応を待っている。
 「ドルネスの代わりに、彼より有名でニアジェンシードから目をかけられていたエディンが離脱していたら、話は別だった。彼らよりも警戒され、厳しく調べられていたことだろう……そうしたら、果たして彼らの名は後世まで伝えられることとなっただろうか?」
 エディンとは《ガゼル》に所属するケイオスを指している。
 「エディンは愚かな者だった」
 ケイオスは直ぐに反論した。
 「彼は自分の才知を惜しみなくニアジェンシードに捧げた。一部だけでも彼は自分の中に能力を隠しておくべきだったのだ。況してそんな混乱の時代であったのだから」
 ケイオスは暗に、自分がまだ全力を出していないことを示唆した。事実、彼はまだ全力で戦ったことはなかったし、《ガゼル》では自分で策を立てることもなかった。これらは全て、後の事を計画した上での行為である。
 策を立てれば自分の思考の型が見破られる虞もある。相手が司祭である限り、性格まで露見してしまう惧れさえある。いつか敵対する相手にそれを知られているのはかなり危険なことだ。
 「ドルネスも確かにニアジェンシードに警戒されてはいた…理由は分からないが。だが彼は、主に見破られていない秘密を隠し持っている。そしてそれは未だ、ライデンにも知られていない」
 ドルネスはノスフェラトを、ライデンとはフェンリルを指す。
 「ドルネスは何故それを知られていないと分かったのだ?」
 「確認しようとする前に、ライデンがそれを知らないと示すことを言ったからだ。ドルネスは実はエディンでもある。だがライデンはエディンのことしか問わなかった」
 ケイオスは淡々と言った。
 「とにかく、筋書きを考えねば」


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あきゅろす。
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