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非日常の日常(和麻)完
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玄が出て行ったのを悟ると彼は身近にあった上着を掴み、後を追った。玄が何処へ行ったのか全く見当が付かなかったが取り敢えず学校へ向かうことにした。
暫く走っているとやけに辺りが騒々しいと颯太は感じた。カラス問題は概ね処理できた筈なのだが。
『主人!』
声の聞こえる方へと顔を向けると玄がこちらに飛んできていた。颯太は走るのをやめ、横に腕を突き出す。玄は大きな翼を広げ、優雅に彼の腕に止まった。
「どうしたんだよ!」
『今すぐお戻りください。危険です』
何故と声を上げようとした時、遠くで誰かが叫ぶのが聞こえた。
「火事だ! 向こう側の学校が燃えている!」
はっとして玄を見ると彼は顔を背けて渋々頷いた。
『そうです、あいつらが遂に主人を狙ってきました』
今日は土曜日のため部活に入っていない颯太は学校に行っていなかったが運動部の生徒は今学校にいる。さらにその学校は住宅街の細道をたくさん曲がって辿り着くところにある。だから消防車が学校に着くまで時間がかかる。途端に血の気が引くのが分かった。気付いた時には颯太は既に走り出していた。
「玄! 父さん言ってたよな、使える機会が来たら使えるって!」
言葉の意味を理解すると玄は、はいと答えて颯太の後についた。颯太を止めるのは無理だと悟ったらしい。

 現場に着いた瞬間とてつもない熱風が彼らを包んだ。どうやら校舎周りに植えてある樹木が放火されたらしい。颯太が校門へ回り込んでいく間に玄は校舎内に残っている生徒を確認しに行った。
『まだ負傷者は出ていませんが、校門へ繋がる道が危険ですので負傷者が出るのは時間の問題かと』
校門から様子を窺おうとしていた颯太に規制をかける。颯太はチッと舌打ちをすると人目の付かない場所を探す。魔法を使うなら人に見られない方が良い。だからと言って魔法をかける対象が見えないのはいけない。
『主人、私は火事を収めるという大技は使えませんが、瞬間移動ならできます。主人を校舎の屋上へ移動させて差し上げます』
「出来るの?」
玄だけならともかく、玄の何倍もする颯太を移動させるとなると相当な力を使うのだ。玄が心配される筋合いはありませんと言うや否や颯太は漆黒の羽で覆われた。真っ暗になったかと思いきや、すぐさま視界は開け、広い空が目に飛び込んだ。
「スゴー。俺も頑張らなきゃな」
本当に瞬間移動出来たことに少々感嘆の声を上げる。けれども、すぐに火元へ向き直り様子を見た。火はどんどん広がっているらしい。
力の使い過ぎのためか玄は珍しく座り込んでいた。ただでさえ疲れているのに無理をさせたことに申し訳ない気持ちが沸いた。その後ろ向きな気持ちに釣られて、啖呵を切ったものの魔法が使えなかったらどうしようと不安が顔を出してきた。気持ちで負けてはいけない。颯太は頬をぱしんと叩き、気合いを入れる。
「ところで、玄。魔法を使うときって呪文とか要るの?」
『私達と主人では魔法を使う勝手が違います。ご存じないのですか』
魔法を使うことは勿論、魔法使いが魔法を使う光景すら見たこともない颯太がどのようにして魔法を使うのか知るわけもない。玄が呆れたようにため息をついた。
『では、ご自慢の気合いで何とかして下さい』
気合いで魔法が使えるのなら端から苦労はしない。颯太が逡巡しているうちに火の手はますます広範囲へと手を伸ばしている。
「ああ! もう!」
緊急事態に追い込まれても魔法の呪文は思い浮かばなかった。もどかしさに頭を掻きむしる。
(颯太なら大丈夫だから)
耳の奥でパニック状態に陥ると必ず掛けてくれた父の言葉が鮮やかに響く。この言葉を聞くと颯太は不思議と落ち着いた。掻きむしっていた手を下し、目を閉じて深呼吸をする。次の瞬間勢いよく目を開いた。


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